「仕事を辞めたい」と嘆く従業員がいるように、「社長を辞めたい」と悩む経営者もたくさんいます。
社長という立場は孤独で、簡単に周りには相談できない悩みを抱えながら日々経営をしています。

本記事では、経営者がなぜ辞めたいと思うのか、そして辞めたいと思ったら何から始めたらいいのかについて解説いたします。
社長を辞めるために押さえるべきポイントを把握し、経営者としてのプレッシャーやストレスから解放されましょう。

  1. 社長を辞めたいと思う状況とは
  2. なぜ社長を辞められないのか?
  3. 社長を辞める方法4選
  4. 社長を辞めたいと思ったら何から始めるべき?
  5. お困りの際は一度専門家にご相談を!

社長を辞めたいと思う状況とは

経営者が社長を辞めたいと考えるのには様々な理由が考えられます。

  • 業績が悪く先行きが見えない
  • 従業員との人間関係がうまくいっていない
  • 社長が体力の衰えを感じ始めた
  • 責任やプレッシャーに耐えられない
  • 会社以外にやりたいことが見つかった
  • 従業員の定着率が悪い
  • 周りに相談できる人がいない

日本政策金融公庫が中小企業の経営者を対象に2023年に行った調査では、全体の57.4%の企業が廃業を考えていることがわかりました。
このデータから、上記のような状況が多くの経営者に廃業を考えさせているといえるのではないでしょうか。

なぜ社長を辞められないのか?

辞めたいと考えている社長が辞められないのにはたくさんの理由があります。
一つひとつ解説していきます。

  • 会社や従業員に対して責任感がある
  • 雇われ社長であるため自分の意志で辞められない
  • 今までの地位や収入を失うのが怖い
  • 会社を継いでくれる人物が見つからない

会社や従業員に対して責任感がある

経営者である以上、常にその後ろには従業員やその家族の生活があります。
自分の気持ちだけで彼らの生活にまで影響を与えてはいけないと考える社長も多いでしょう。

経営が傾いていても、長く続いている会社であればあるほど自分の代で会社を畳むわけにはいかないという気持ちがあり、なかなか辞めたいと言い出せないケースも考えられます。

会社を倒産させるのではなく、事業承継やM&Aで残すにしても従業員にとっては環境が大きく変わります。
自分の退任をきっかけに会社を辞めるという従業員も出てくるかもしれません。

「周りへの影響を考えると辞めたいなんて言えない」という経営者は、辞めたい気持ちを押し殺しながら日々の業務に取り組んでいる可能性があります。

雇われ社長であるため自分の意志で辞められない

雇われ社長とは、自身で会社を保有しているのではなく、会社のオーナーに雇われている社長を指します。
経営者として働いていますが、雇われているという点では従業員と同じです。

雇われ社長の場合、後継者を見つけてこないと辞任できず、会社にマイナスの影響を与えるタイミングで契約を解除するようなことがあれば損害賠償責任を負う可能性も。

後継者を見つける労力や賠償責任のリスクを考えると、「今は耐えよう」と、辞めるのを諦めている可能性が考えられます。

今までの地位や収入を失うのが怖い

社長は会社で一番地位の高い存在です。
そこまで辿り着くためにたくさんの時間と労力をかけてきたことでしょう。
その大変さは経営者にしかわかりません。

そのため、血の滲む思いで手に入れたその地位や収入を失うことに抵抗を感じることもあるでしょう。
後継者候補がいたとしても、「この人に自分が築いてきた会社を任せられない」と後継を拒みたい気持ちもあります。

社長の立場は苦しく、辞めたいと思うけれども、上記のようにプライドが邪魔をしてしまうケースが考えられます。

会社を継いでくれる人物が見つからない

先述の項目でも少し触れましたが、辞めたくても後継者がいないと辞められないという状況は珍しくありません。
代々続いている会社の後継ぎである場合、自分の代で終わらせるわけにはいかないと考えるのが一般的です。

後継者の選択も先代の責務ですので、選んだ後継者が結果を出せなかったときに負い目を感じてしまいます。

そのリスクを考えると慎重に後継者を選ぶことが大切です。
しかし、後継者選びに注げる十分な時間の確保も難しく、結局その場に居続ける選択をとっているかもしれません

社長を辞める方法4選

社長を辞めたい経営者がとれる4つの選択肢をご紹介します。
それぞれメリットもデメリットもあるため、十分に比較検討したうえで選びましょう。

  • 廃業
  • 会社の売却
  • 事業承継
  • 休眠

廃業

まずは廃業です。社長の座を降りると同時に、会社の活動を停止します。

債務を完済して清算手続きを終えれば事業を終了できるので、比較的手間をかけずに行える手段です。
しかし、従業員が失業してしまう、取引先にも大きく影響を与え得るといった周りへの影響が大きいのが廃業のデメリットといえます。

加えて、自分の手で会社を畳まなければならないため、手元にそれなりの現金が必要です。
すでに業績が悪化した状態では廃業したくてもできず、債権者との厳しい交渉や経営者自身にも借金が残る可能性も出てきます。

廃業は倒産ではないため、決して不幸な結末ではありません。
ただし、デメリットが多い選択肢ではあるため、安易に選択すべきではないでしょう。

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会社の売却

M&Aによって会社の売却を行うと同時に会社の所有権を手放すことも、社長を辞める手段の一つです。
制度上は会社の所有権がなくても社長としての仕事は続けられますが、一般的には売却と同時に退きます。

また、株式譲渡によって会社の所有権を手放す場合がほとんどで、譲渡した株式分の対価を受け取ることができます。
会社の借入れの際につけていた代表者保証も新オーナーに引き継がれ、経営者自身は資産を増やして負債や責任から逃れられます。

加えて、買い手企業とのシナジーや企業基盤の強化が期待でき、会社がなくなるわけではないので、従業員の雇用を守ることも可能です。

以上のように売却は魅力的なメリットが多い一方で、一定期間子会社の社長として勤務の必要があったり、買い手企業とのトラブルのリスクがあったりします。

売却後すぐに社長の座を降りたい経営者や、資産やブランド力に自信があり、売却後にまとまった利益が見込める経営者におすすめの方法です。

事業承継

事業承継とは、「親族や従業員、あるいは第三者の中から後継者を選び、会社の事業を承継して引き継いでもらうこと」です。
事業承継は親族内承継、従業員承継、M&Aによる承継の3つに分類されます。

会社が残る、売却・譲渡益を確保できる、従業員の雇用を確保できるといった会社売却と似たメリットがあります。
会社売却との違いは、信頼できる人物に会社を引き継ぐことができる点と、事業承継後も形を変えずに事業を残せる点です。

一方、納得できる後継者がなかなか見つからないリスクや費用が大きくかかるといったデメリットがあります。
また手続きも複雑で、専門家への相談が必須といっても過言ではないでしょう。

後継者の見当がついている、形を変えずに続けてほしい事業があるといった場合には事業承継をおすすめします。

休眠

一旦会社の活動を停止し、文字通り会社を眠らせた状態にすることを会社の休眠といいます。
廃業は会社が消滅してしまいますが、休眠では事業が停止しているだけで会社自体は存続します。

税務署と市区町村に休業届を出すだけで休眠できるので、手続きの手間はかかりませんが休眠中も税務申告は必要です。
また、株式会社の場合は、役員登記などの登記を12年以上放置すると、みなし解散にもなりかねませんので注意してください。

とりあえず心を休めたい、社長を辞めた先の将来をじっくり考える時間がほしいという経営者は休眠という選択肢をとるのも良いでしょう。

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社長を辞めたいと思ったら何から始めるべき?

社長を辞めるための方法を紹介いたしました。
しかし、「結局何から始めればいいのかわからない」という方もいらっしゃると思います。

どの方法をとるにしてもやるべきことがあるので、以下で紹介するものから実行に移してみましょう。
以下の項目を実行することで、自ずとどの方法を選択すべきかも見えてくるはずです。

  1. 何のために辞めるのかを明らかにする
  2. 周りへの影響を言語化する
  3. 財務計画を立てる
  4. 退任の手続きを進める

1.何のために辞めるのかを明らかにする

何事も目的が見えていないとうまくいきません。
結局自分は何がしたくて、何が目的で、どうなりたくて社長を辞めるのかを明確にしておきましょう。

ただ辞めたいという気持ちで動いてしまうと、準備が十分に行えず社長の引退に失敗したり、引退後の生活で何を目標に生きていけばいいのかわからなくなったりするケースも考えられます。

2.周りへの影響を言語化する

社長を辞めるという選択をすれば、周りへの影響は避けられません。
従業員だけでなくその家族、また取引先や地域社会など、多方面に影響を与えます。

周りへの影響を目に見える形に落とし込み、そのうえで社長を辞めるベストな方法はどれなのか、そもそも今辞めるべきなのかなどを考えましょう。

3.財務計画を立てる

引退後の生活に関しての財務計画を立てましょう。
せっかく引退できたのに、お金に苦労する生活では充実したセカンドライフは送ることができません。

社長を辞める前に、引退後はどこでどのくらい収入を得て、月々いくらお金を使ってといったように、自身の財務計画を立てておくことをおすすめします。

4.退任の手続きを進める

自分が引退した後の会社のこと、自身の生活のことが明確になったら、退任に向けて動き始めましょう。

社長を引退する際の具体的な変更手続きは過去のコラムにまとめているので、ぜひそちらをご覧ください。

社長・代表取締役の変更手続きや費用について解説

上場企業のような、大きな会社だけでなく、規模が小さな会社においても、社長交代は社内外へ重大な影響があります。 …

お困りの際は一度専門家にご相談を!

日々大きな責任とプレッシャーと戦わなければならない経営者の地位を維持し続けることは容易ではありません。
幾度となくその役職を辞めたくなる時が来るでしょう。

ただし、すぐに辞めることを決断するのではなく、一度立ち止まって、今本当に辞めるべきか、辞めるために今自分ができることは何かを冷静に判断する必要があります。

社長を辞めた後のこともしっかり考慮してから社長を辞めるという選択肢をとり、すっきりした気持ちで充実した生活を送りましょう。

名古屋事業承継センターでは、引退を考えている経営者のお悩みに全力でお応えします。
事業承継やM&Aに関するご相談を無料で承っております。
お困りの際はぜひ気軽にご連絡ください。

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