グループ会社や事業の切り離しを行う際によくとられる選択肢が「カーブアウト」です。
不採算部門を切り離すことで、事業拡大を図ったり、経営をスムーズにしたりすることができます。
しかし、カーブアウトの実行は容易ではありません。
本記事で、カーブアウトとはどのような手法なのか、その基本を押さえ、成功させるためのポイントを把握しておきましょう。
カーブアウトとは
カーブアウトとは、企業が子会社や事業の一部を切り離して、他の企業に売却や譲渡をすることで、別組織として独立させる経営手法のことをいいます。
近年、カーブアウトの件数に増加傾向が見られますが、この動きには事業ポートフォリオ見直しの機運の高まりが関わっています。
2020年7月末に経済産業省から「事業再編実務指針」と「社外取締役ガイドライン」が発表されました。
このことにより、取締役や投資家といったステークホルダーの発言力が強まり、従来よりも収益性を重視する企業が増えてきました。
それに伴い、自社に何が必要で何が不要かをしっかり判断して経営を行う経営者が増え、デメリットをもたらし得る事業を切り離す事例が増加しました。
その結果、カーブアウトを実行する企業の増加に繋がっています。
カーブアウトとスピンアウト・スピンオフとの違い
カーブアウトと混同しやすいビジネス用語にスピンアウトとスピンオフと呼ばれるものがあります。
どちらの手法もカーブアウトの一種ですが、それぞれに特徴があります。
スピンアウトとは
スピンアウトとは、子会社や事業を切り離して新たに独立した会社を設立することです。
事業の主体を新会社に移すため、親会社との資本関係を解消することになります。
新会社が完全に独立するため、元の会社から影響を受けない一方で、元の会社のブランド力やライセンスを活かせず、新会社の力で成長していかなければなりません。
専門性の高い技術者が独立して起業する場合や、不採算事業を分離して第三者に売却する場合によく用いられます。
スピンオフとは
スピンオフはスピンアウトとは異なり、事業を切り離した後も元の会社と資本関係を維持したまま、独立企業を立ち上げる組織再編手法です。
組織として切り離すものの、元の会社と資本関係は継続します。
新設された会社は元の会社のブランド力やライセンスを活かせるものの、様々な場面で元の会社が介入することが多く、経営の自由度が高いとはいえません。
新規事業の切り出しにより機動性を高める場合や、大きくなった組織を再編する場合に用いられます。
カーブアウトの手法
カーブアウトには代表的な手法が2つあります。
- 会社分割
- 事業譲渡
会社分割
会社分割とは、会社を事業ごとに分割して、その事業を他の企業に承継するM&Aスキームです。
会社分割には、新設した会社に事業を承継する新設分割と、既存の会社に事業を承継する吸収分割の2種類があります。
抜本的な経営の見直しを図る場面や、自社における得意・不得意が明確になった場面において用いられることが多いです。
会社分割は新規発行した株式によって対価を支払えるため、買い手に資金がなくても売却が可能。
加えて、資産や契約関係を包括して承継することによって、個別の承認や手続きが不要になり、手間と時間を削減できることがメリットとして挙げられます。
事業譲渡
カーブアウトのもう1つの手法が、事業譲渡です。
会社分割とは異なり、新会社に権利や契約関係は引き継がず、事業だけを承継します。
そのため、事業譲渡後に取引先や顧客と個別に契約を交わさなければなりません。
会社分割の包括承継のように一気に承継はできませんが、個別に承継することによって簿外債務や不要な資産を引き継ぐリスクを減らすことができます。
しかし、その分手間や時間がかかってしまうのがデメリットです。
不採算事業を切り離す場合だけでなく、廃業を避け、経営再建を図る場合にも用いられます。
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カーブアウトのメリット
カーブアウトは、親会社や独立した会社にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
主に以下のメリットがあります。
- 主力事業に集中できる
- 子会社は親会社の経営資源を活用できる
- 新しい技術や知見を活用できる
主力事業に集中できる
カーブアウトを行うことで、停滞していた事業のことを考えずに済むようになり、本来の主力事業に経営資源を割くことができます。
カーブアウトによって切り離された事業も小規模組織となることで機動力が上がり、事業の推進力を高めることができます。
カーブアウトによって選択と集中を実施することで、2つの会社において企業価値向上や利益増加が期待できるでしょう。
子会社は親会社の経営資源を活用できる
カーブアウトによって独立した会社は、親会社から技術やノウハウを引き継ぐことができます。
一般的な方法で会社を設立するよりも活用できる経営資源が多いため、事業の成長を促進しやすいでしょう。
会社間で資本提携を結んでいれば、新会社は十分な資金を確保した状態で事業をスタートできるため、スムーズに経営を始めることができます。
新しい技術や知見を活用できる
カーブアウトによって会社を新設した場合、外部から資金や人材を調達しなければならないため、様々な技術や知見が会社に入ってくる機会が増えます。
すると、社内でシナジー効果が生まれやすくなり、事業拡大やイノベーションに繋がる可能性を高めることができるでしょう。
カーブアウトのデメリット
カーブアウトは事業を成長させるうえで魅力的な手法である一方で、デメリットもあります。
- 従業員の離職に繋がる
- 事業の許認可取得に手間がかかる
従業員の離職に繋がる
一般的に、カーブアウトの際には、親会社から切り離された事業に従事していた従業員が新会社に転籍することになります。
しかし、転籍を望まない従業員もいるでしょう。
転籍によってこれまで描いていたキャリアプランに変更が生じる可能性があり、納得できない従業員は離職を希望する可能性があります。
社内人材が減れば、新たに人材を確保する費用や時間が必要となり、事業拡大に歯止めがかかってしまう可能性があります。
そこで、転籍後のキャリアアップや待遇について従業員の希望を反映したり、彼らの成果にインセンティブを設定したりといった方法をとりましょう。
従業員のモチベーションをいかに維持するかが離職防止に繋がります。
事業の許認可取得に手間がかかる
新設会社が許認可を引き継ぐ際には承継が必要です。
ただし、事業の許認可によって、所定機関に届け出を出すだけで済むのか、所定機関の承認が必要なのか、新規取得が必要なのかが異なります。
以上のような取扱いの違いにより、時間がかかってしまう可能性があります。
カーブアウトに関わる許認可を洗い出し、該当する許認可が以下のいずれに当たるのかを、法令調査や監督官庁へ問い合わせて確認しましょう。
- 新会社に自動的に承継される許認可
- 簡易な手続きで承継できる許認可
- 新会社で新規取得が必要な許認可
認許可を事前に取得していなければ、カーブアウト実施後すぐに事業を始めることができません。
早めに動き出しておくことでスムーズにカーブアウトを進めることができるでしょう。
カーブアウト実施の流れ
カーブアウトを実行する際の大まかな流れは、以下の通りです。
- 基本方針を定める
- 承継するものとしないものを整理する
- カーブアウト財務諸表を作成する
- 適時開示を行う
まずはカーブアウトを行う目的を明確にして、どこまでの範囲を分離させるのかを大まかに定めましょう。
それに伴い、前述した会社分割と事業譲渡の適用場面やメリット、デメリットを踏まえ、スキームを選択します。
次に、承継する範囲を具体的に検討します。
- 取引先や顧客との契約関係
- 従業員との雇用関係
- 資産や負債
- 許認可の承継可否
以上のような項目をリストアップして整理するだけでなく、対象となる事業や業務フローをイメージしながら多面的に承継範囲の検討をしましょう。
その後、カーブアウトにあたって対象となる事業の会計管理情報を調整します。
このときに作成するのがカーブアウト財務諸表です。
カーブアウト財務諸表とは、カーブアウトの対象事業が独立する際に単独で事業を運営したケースを想定して調整した財務諸表のことです。
部門別損益計算書や貸借対照表を参考に作成します。
上場企業の場合、最終的に投資家に対して決定事項や決算情報を公開する適時開示を行う必要があります。
カーブアウトの契約を締結したタイミングでの公表が一般的です。
以上がカーブアウトの一連の流れになります。
カーブアウトを成功させるための注意点
カーブアウトを成功させるには、多くの項目について注意しなければなりません。
以下の3項目に関しては、最低限把握しておきましょう。
- 知的財産や許認可の取扱いを事前に確認しておく
- 従業員への説明や配慮を徹底する
- スキームを総合的に判断する
知的財産や許認可の取扱いを事前に確認しておく
引き継ぐ知的財産や許認可の取扱いは慎重に行いましょう。
知的財産や許認可は、その種類によっても取扱いが異なります。
これらがきちんと引き継がれないと、カーブアウト後に事業が継続できない可能性も出てきます。
早い段階で専門機関に問い合わせて引継ぎ方法について把握し、カーブアウトの手続きをスムーズに行えるようにしておきましょう。
従業員への説明や配慮を徹底する
従業員に対して、カーブアウトについての説明や配慮が不足していると、従業員のモチベーション低下や会社への不信感を招き、離職されてしまう可能性が高まります。
M&Aは秘密裏に行われることが多いため、従業員への情報共有が遅くなってしまうのは仕方がありません。
その分、丁寧な説明や対応を心がけることで、従業員の不満を減らすための動きをとりましょう。
スキームを総合的に判断する
カーブアウトの実施にあたっては、会社の状況を踏まえたスキームの選択が必要となります。
前述の通り、カーブアウトのスキームである会社分割と事業譲渡は、それぞれ良い面、悪い面の両方を持ち合わせており、適している場面や事業規模も異なります。
用いるスキームに関しては、かかる時間や手間だけでなく、多角的に判断することを心がけましょう。
カーブアウトで自社事業の拡大を図ろう
カーブアウトは不採算事業を切り離すことで、会社の主力事業の成長を促進するだけでなく、新会社において不採算事業の成長も図ることができます。
ただし、プロセスは煩雑で、容易に実現できる手法ではありません。
困ったときは外部の専門家の協力を得ながら慎重に手続きを進めることで、カーブアウトを成功させましょう。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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