M&Aには様々な手法がありますが、その一つに事業譲渡というものがあります。
このコラムでは、事業譲渡の流れやどのような場合が活用に適しているかまで、詳細に解説いたします。

  1. 事業譲渡とは
  2. 事業譲渡と株式譲渡の違い
  3. 事業譲渡の種類
  4. 事業譲渡の流れ
  5. 事業譲渡のメリット・デメリット
  6. 事業譲渡が適しているケース
  7. まとめ

事業譲渡とは

事業譲渡は、会社の事業全て、もしくは一部を譲渡するというM&A手法を指します。
事業譲渡では、譲渡する事業を選択して売買することができるため、他の手法と比較して柔軟なM&Aをすることができます。

また、買い手企業もM&Aによって負債を引き継ぐリスクも少ないというメリットもあります。

事業譲渡と株式譲渡の違い

社長急死手続きパターン事業譲渡は、M&Aの手法の中で株式譲渡に次いで多く用いられています。
売り手側の企業は、会社の事業を一つずつ整理し、譲渡対象とする資産を買い手側と協議した上で詳細に決める必要があります。

株式譲渡では、株式の譲渡に伴い、会社の経営権を承継させますが、事業譲渡では事業の一部を会社から切り離して承継するため、譲渡企業の経営権は存続します。

事業譲渡の種類

事業譲渡には、

  • 一部譲渡
  • 全部譲渡

の2種類があります。

文字通り、一部譲渡では会社の事業の一部を切り離して譲渡し、全部譲渡では、売り手側が保有する事業全てを譲渡します。

どちらの手法であっても、会社そのものを譲渡するわけではないため、経営権自体は売り手企業に残ります。

事業譲渡の流れ

事業譲渡の手続きは複雑になることもあり、長期スケジュールとなる場合もあります。
基本的に事業譲渡は、以下の流れで行われます。

  1. 事業譲渡の準備・計画
  2. 相手企業の選定と交渉
  3. 経営者同士の面談
  4. 意向表明書の交付
  5. 基本合意契約の締結
  6. デューデリジェンス(DD)の実施
  7. 取締役会の開催
  8. 事業譲渡契約の締結

事業譲渡の準備・計画

譲渡企業は、まずどの事業をいつまでに譲渡するかなど、具体的な計画を立てる必要があります。
自社株の価値や希望する売却価額など、綿密に準備することが大切です。

他社事業の買収を希望している会社も、自社分析を行い、どのようなシナジー効果をもたらすかを考慮した上で、買収する事業を決定しましょう。

相手企業の選定と交渉

事業譲渡する相手が決まっていない場合、M&A仲介会社などを利用して相手企業を探す必要があります。

その際、一般的に売り手はノンネームシートという資料を作成します
ノンネームシートは、文字通り企業名が伏せられた状態で、事業概要や売上げなどの情報が記載された資料であり、買い手はこの資料を参考に相手企業を選定します。

この段階で相手企業が見つかった場合、双方で秘密保持契約(NDA)を結んだ上で、譲渡側のより詳細な情報が買収先に開示されます。

経営者同志の面談

これまでの情報開示で、契約が締結される可能性が高まると、次は双方の経営者同士の面談が行われます。
この面談では、資料だけでは得ることが難しい経営者同士の相性や経営理念などを確認します。

意向表明書の交付

譲受企業から譲渡企業に対して意向表明書の交付を行います。
意向表明書には、譲受企業の買取りの意向と共に、対象事業や買収価額などの条件が記載されています。

基本合意契約の締結

双方の譲渡への意志が確認できた段階で、基本合意契約の締結へと進みます。
基本合意契約では、M&A手法、デューデリジェンスの流れ、独占交渉権の付与についての取決めを行います。

デューデリジェンス(DD)の実施

基本合意契約が締結された後はデューデリジェンスが行われます。
デューデリジェンスは、M&Aの際に、買収企業が売却企業に対して行う、経営状況や財務状況に対する事前調査のことを指します。

これまで開示された基礎情報だけでは分からなかった企業の実態を把握し、より正確に事業の価値を算出することができます。
買収企業は、デューデリジェンスでしっかり簿外債務などのリスクを洗い出すことが大切です。

M&Aにおけるデューデリジェンスとは?進め方と流れも解説!

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資や不動産売買、M&Aにおいて買収先の価値を測り、リス…

取締役会の開催

譲渡企業が取締役会設置会社の場合、事業譲渡の重要事項を決定するために、取締役会での決議が必要になります。

事業譲渡契約の締結

売り手企業が事業譲渡について取締役会の決議を済ませた後は、双方で事業譲渡契約の締結を行います。
事業譲渡契約には、譲渡内容、譲渡対価などの具体的な条件を記載します。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡でのメリット・デメリットを買い手企業と売り手企業に分けて紹介いたします。

買い手企業のメリット

買い手企業のメリットには以下の2つが挙げられます。

  • 買収したい資産を選択できる
  • 負債を引き継ぐリスクがない

買収したい資産を選択できる

買い手企業は、自社にとって必要な部分だけを選択し、承継することができます。
強化したい部門だけを買収することができるため、効率的な企業成長をすることができます。

負債を引き継ぐリスクがない

会社全体でなく、必要な資産だけを選択して承継することができるので、売り手との協議の上で簿外債務の承継も回避することができます。

買い手企業のデメリット

  • 手続きに手間がかかる
  • 消費税の支払いが必要

手続きに手間がかかる

事業譲渡は、その他のM&Aと比較して手続きに手間がかかるという特徴があります。
M&A手法として最も一般的な株式譲渡では、全ての株式を購入するというとても分かりやすい手続きですが、事業譲渡では、対象となる資産・負債それぞれの契約を結び直す必要があります。

消費税の支払いが必要

株式譲渡では、消費税の支払いは必要ありませんが、事業譲渡では、譲渡された資産の中に課税対象が含まれている場合、消費税が課されます。

売り手企業のメリット

男性の画像売り手企業のメリットは、以下の2つが挙げられます。

  • 会社の法人格を残すことができる
  • 負債があっても譲渡先を見つけやすい

会社の法人格を残すことができる

事業譲渡では、特定の事業のみを売却できるので、法人格は残すことができます。
そのため、事業譲渡で得た売却益を元手に新たな事業を同じ法人格で始めることもできます。

負債があっても譲渡先を見つけやすい

事業譲渡では、買い手企業が譲渡企業の負債を引き継ぐ必要がないため、会社全体で負債を抱えていたとしても、相手を見つけることができます。

売り手企業のデメリット

売り手企業のデメリットは以下の2つが挙げられます。

  • 手続きに時間がかかる
  • 売却益に法人税がかかる

手続きに時間がかかる

買い手と同様、株式譲渡などと比べて手続きが複雑になるケースが多いです。
事業譲渡では、決断することが多く、手間だけでなく多くの時間を要することもあります。

売却益に法人税がかかる

事業譲渡により、売却益を受け取った場合、法人税や住民税などの税金が課せられます。
ただし、課税対象は、事業譲渡での売却益とその他で発生した損益の通算となっているため、役員退職金や繰越欠損金によって節税対策を取ることも可能です。

事業譲渡が適しているケース

事業譲渡を行うべきケースとして主に以下の2つが挙げられます。

  • 不採算部門を切り離したい場合
  • 廃業を避け、経営再建を図る場合

不採算部門を切り離したい場合

一つの事業だけでなく、会社で複数の事業を営むことは珍しいことではありません。
ただ、全ての事業において好調を維持することは難しく、一部の不採算部門を他の事業で得た利益で補填する場合もあるでしょう。

事業譲渡で不採算部門を切り離し、外部に承継することで、利益を好調部門の設備投資に回すことができ、さらなる会社の成長を期待することができます。

廃業を避け、経営再建を図る場合

廃業することで、従業員の雇用が失われるだけでなく、取引先へ影響を与えてしまうことも考えられます。

事業譲渡を行い、会社の規模を縮小させると同時に売却益を得ることで、資金繰りを好転させることができます。

まとめ

事業譲渡では、会社全体でなく、一部の事業から譲渡することができます。
そのため、会社全体が赤字であっても、一部の好調事業のみの売却も可能です。

ただ、手続きが煩雑で、3ヶ月〜12ヶ月ほどの期間が必要な場合があるため、前もって準備を進めることが大切です。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。