会社から役員に対して貸付けを行う「役員貸付金」

使い勝手が良いため、つい多くの場面で計上してしまい、気付けば、役員にとって多額の負債になっていることも。
しかし、あまりに抱え過ぎてしまうと、様々なリスクが生じてきてしまいます。

溜まってしまった役員貸付金の処理に困っている経営者に向けて、本記事ではその消し方をご紹介します。
役員貸付金の解消方法を把握しておくことも大切ですが、本記事を機に、役員貸付金との関わり方を見直してみてはいかがでしょうか。

  1. 役員貸付金とは
  2. 役員貸付金が発生する理由
  3. 役員貸付金を抱えることのリスクとは?
  4. 役員貸付金の消し方7選!
  5. 役員貸付金は早めに解消しておこう

役員貸付金とは

役員貸付金とは、企業から役員への貸付金を指します。

  • 経営者が会社の資金を私的な目的で使用した
  • 役員が会社の資金を何に使ったのか失念した

といった理由で日常的に発生する可能性があるのが役員貸付金です。

役員貸付金は使い勝手が良い一方で、膨らんでいくと様々な問題に発展する恐れがある、リスクを伴った資産であることを覚えておきましょう。

役員貸付金が発生する理由

役員貸付金は、以下の理由で発生することが多いです。

  • 役員の資金不足
  • 決算の調整
  • 杜撰な資金管理

役員の資金不足

役員が個人的な事情でまとまったお金が必要になったときに、会社から借入れを行うことで役員貸付金は発生します。
役員個人が不動産を取得した際や、納税のタイミングで会社が立て替えることがこれに該当します。

中小企業の中でも、特に株主や役員が親族で構成されている企業に多く見られるケースです。

決算の調整

決算時の数字をよく見せるために、経費として計上すべき支出を役員貸付金に振り替えるというケースが考えられます。

当然ですが、このような処理は粉飾決算に該当します。

これは単なる赤字隠しでしかなく、あまりにも役員貸付金の額が多いと金融機関は疑いを持ち、粉飾決算が判明するでしょう。
そうなれば、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事上の責任で多額の課徴金が発生したり、上場廃止処分となったりと、会社は大きな損失を被ることになるでしょう。

杜撰な資金管理

小さな企業の場合、会社で現金出納帳を記載しておらず、会社と経営者個人のお金の区別が曖昧になっているケースが考えられます。
また、用途がわからなくなったお金をとりあえず役員貸付金として計上している企業も多いです。

以上のような杜撰な資金管理によって生じている役員貸付金は、計上した本人も失念していることが多い傾向があります
気付かぬうちに溜まってしまっている役員貸付金のほとんどは、財務管理の甘さによるものだといえるでしょう。

役員貸付金を抱えることのリスクとは?

役員貸付金を抱え続けていることは、様々なリスクに繋がります。

  • 金融機関からの評価が下がる
  • 法人税の負担が増える
  • 役員賞与に認定される可能性がある
  • 使途秘匿金とみなされる
  • 相続人に債務が引き継がれてしまう

金融機関からの評価が下がる

金融機関は融資の際に、企業の資金の使い方を見ます。
役員貸付金の計上が多い場合、金融機関は経営者が私的に資金を使っている可能性を疑うでしょう。
また、長期に渡ってその状態が続いていると、融資した際に返済の見込みがないと判断されます。

そのため、役員貸付金が多く計上されていると、金融機関は企業が事業を継続できる可能性を疑い、融資を渋るようになります

法人税の負担が増える

役員貸付金も貸付金であることには変わりなく、会社は役員から利息を徴収しなければなりません。

利息を受け取るとなれば、その分会社の利益が増えるため、支払うべき法人税の負担が大きくなります。

また、法律で定められた一定の利率で利息を徴収するため、貸付金の額に比例して会社の税負担は増えることになる点に注意が必要です。

役員賞与に認定される可能性がある

役員が役員貸付金を返済できない場合、会社は債権の放棄を選択することがあるでしょう。
その場合、役員貸付金は原則として役員賞与とみなされます。

突発的な役員賞与は損金不算入のため、法人税が課されることになります。

さらに、役員賞与は、役員にとって給与所得として課税の対象となります。
その場合、合わせて会社側でも、行うべきだった源泉所得税と、その不納付加算税が課されます。

また、給与の支給額によって決まる社会保険料の負担も、消滅時効に掛かる分を除いて、増えることも把握しておく必要があるでしょう。
給与課税は源泉所得税の対象となるため、役員の社会保険料の負担が増えることも把握しておく必要があるでしょう。

使途秘匿金とみなされる

資金管理が曖昧な企業では、現預金の支出があった場合に、その支出の内容や支払先がわからない状況が発生するでしょう。

このケースで役員貸付金として処理をしてしまうと、以下の4つの観点で使途秘匿金と判断される可能性があります。

  • 金銭の支出であるかどうか
  • 支出先の氏名や所在地といった情報が帳簿に記載されているかどうか
  • 帳簿に記載していない相当の理由があるかどうか
  • 支出額に妥当性があるかどうか

使途秘匿金は違法性が高いと考えられており、厳しい税負担が発生します。
通常の法人税額だけでなく、使途秘匿金額の40%にあたる追徴課税を支払わなければなりません
また、使途秘匿金のケースを含む、支出を処理する段階で隠蔽工作や帳簿の改ざんなどがあった場合、追徴税額に対してさらに35%の重加算税が加えられます

以上のように、内容が不明な役員貸付金は使途秘匿金とみなされ、大きな税負担に繋がります。

相続人に債務が引き継がれてしまう

役員貸付金は相続の対象です。
そのため、役員が返済前に亡くなった場合、企業に全く関係のない相続人に債務が引き継がれてしまいます。

あまりにも役員貸付金が高額だと、相続人が相続を放棄したり、限定承認(残された財産を超える債務は放棄できる相続)を選択したりといったケースが考えられます。
このような場合、企業は役員貸付金を回収できません。

役員貸付金は、役員が生前のうちに回収しておかないと、相続後の回収が難しくなるというデメリットがあります。

役員貸付金の消し方7選!

多くのリスクを抱える役員貸付金ですが、解消方法はあります。
自社の状況に合った方法を実践して、役員貸付金を少しでも減らしましょう。

  • 役員による資金調達
  • 役員報酬の利用
  • 役員退職金との相殺
  • 役員借入金との相殺
  • 自己株式の取得の対価との相殺
  • 経営者による個人資産の売却
  • 役員による自己株式の取得
  • 貸倒れ処理

役員による資金調達

役員貸付金の発生理由が役員である場合は、まずは役員本人に返済できないのか尋ねてみましょう

役員が資金調達をする方法としては、個人的な借入れ、個人資産の売却が代表的ですが、生命保険を活用するという選択肢もあります。

生命保険を活用する方法が気になる方は以下に流れを掲載するので、参考程度にご覧ください。

  1. 役員貸付金を金融機関に債権譲渡する
  2. 債権譲渡で得た資金を元手に、会社を契約者、役員を被保険者として生命保険に加入する
  3. 金融機関は保険証券に質権を設定する
  4. 役員は会社ではなく金融機関に返済を続ける

役員報酬の利用

毎月支払っている役員報酬の一部を返済に充てることも役員貸付金を減少させる手段の1つです。

役員報酬を減らして役員貸付金の返済に充てる場合は、役員の手取り額が減少します。
一方、役員報酬を増額して一部を返済に充てる場合には、役員の手取り額に影響がない一方で、役員個人の税負担や社会保険料の負担が増えてしまいます。

どちらが会社や役員にとって都合が良いかは会社に依るので、経営者と役員で相談してから決めるようにしましょう。

ただし、役員報酬額を変更できるのは期首から3か月以内である点には注意が必要です。

役員退職金との相殺

役員貸付金は、役員退職金と相殺することで解消することができます。

役員退職金には、役員が退任する際に支給する生前退職金と役員の死亡後に支払う死亡退職金の2種類がありますが、役員貸付金の解消には生前退職金の活用がおすすめです。
死亡退職金を活用するとなると、相続税の負担に繋がり、前述した相続人から回収できないリスクが発生してしまうためです。

生前退職金と相殺すれば、役員個人にとっては所得税の負担が小さく済み、企業にとっては用意する退職金を減額することができます。
役員も企業も負担の少ないおすすめの方法です。

役員借入金との相殺

会社が役員借入金も同時に抱えている場合、役員貸付金と相殺することができます。

役員借入金は企業が資金不足に陥っているときに、一時的に資金を立て替える手段として用いられます。
しかし、役員貸付金同様、金融機関からの評価の低下に繋がったり、債務超過の原因になったりと、デメリットが多いのが特徴です。

どちらも多額になってしまってから処理するのは大変です。
役員借入金を計上している場合は、貸付金と相殺することで経営破綻のリスクを減らしましょう。

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自己株式の取得の対価との相殺

役員貸付金は自己株式と相殺することが可能です。

役員が持っている自社株式のうち、貸付金相当額の株式を会社に自己株式として取得させることで、役員貸付金の解消を図ることができます。

株式が移動することで議決権割合に変動が生じることには気を付けなければなりません。

経営者による個人資産の売却

役員が返済できない場合や、上記の解消方法では役員貸付金がなくならない場合には、経営者自身による資金調達が必要になる可能性が出てきます。

経営者が個人的に所有する土地や建物などを会社に売却して、そのお金で役員貸付金を返済するという選択肢を検討しましょう。

ただし、不動産の売却時には名義変更に伴う司法書士への報酬支払いや登記費用といった経済的な負担がかかる点には注意が必要です。

貸倒れ処理

役員貸付金が大きくなり、貸付金全額の回収が不可能と判断した場合、その一部に関しては債権を放棄して貸倒れ処理を行うことを検討しなければなりません。

ただし、この場合、貸付金が役員賞与とみなされ、役員に所得税や住民税が課されてしまいます。
加えて、役員に対する債権放棄は取締役会あるいは株主総会での承認が必須なので、手間もかかります。

手続きと税負担の観点でも、できれば貸倒れ処理は避けたいところです。

役員貸付金は早めに解消しておこう

役員貸付金を正しく利用する分には問題ありませんが、企業や経営者、役員の都合の良いように使っていると、会社に大きな損失をもたらしかねません。
役員貸付金はその額が大きくなるほど解消が困難になっていきます。

もし役員貸付金が多額になってきたと感じた場合には、早急に解消に向けて動き出すことで、会社やステークホルダーへの影響を最小限にしましょう。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。