近年、新型コロナウイルスの影響により、閉院や廃業に追い込まれるクリニックが急増しています。
他にも様々な理由で多くのクリニックが営業を停止していますが、その際は多額のコストが発生することに注意する必要があります。

今回のコラムでは、クリニックの閉院にあたり、どのようなコストが発生するのか解説いたします。

  1. 閉院に追い込まれる医療機関が増加している
  2. クリニックが閉院・廃業する理由
  3. クリニックの閉院にかかるコスト
  4. 病院を廃業する際の注意点
  5. 閉院以外の選択肢を検討しよう

閉院に追い込まれる医療機関が増加している

参考:帝国データバンク

帝国データバンクが公表したデータによると、休廃業や解散、倒産などにより、閉院することになった医療機関の数は年々増加しています。

2019年以降は「休廃業・解散」の件数だけでも500件を突破し、2021年は過去最高の567件を記録しています。
そのうちクリニックは471件であり、全体のおよそ8割に当たります。

クリニックが閉院・廃業する理由

年々閉院に追い込まれるクリニックが増加している理由としては、主に以下の理由が挙げられます。

  • 後継者が見つからない
  • 経営状況の悪化
  • 勤務医に転職する

後継者が見つからない

全国にあるクリニックの院長の平均年齢は年々高まっていますが、その主な原因が後継者不足です。
後継者が見つからないために、高齢になっても引退することができず、最終的に廃業まで追い込まれてしまいます。

以前は院長の子供が病院を引き継ぐことが一般的という風潮がありましたが、近年はそのような認識もなくなりつつあります。
医師免許を取得したとしても、診療科が異なったり、他の病院で勤務医になることを選択する人も多いです。

経営状況の悪化

院長の年齢や後継者の有無に関わらず、経営状況の悪化により、閉院を選択せざるを得ない状況に追い込まれてしまうケースもあります。
特に小規模なクリニックの場合、売上は周辺地域の人口に依存する傾向があるため、過疎化が著しい地方では、人口減少に伴い、売上も下がってしまいます。

さらに近年は新型コロナウイルスの影響もあり、多くのクリニックで来院患者数が減少しています。
特に内科・小児科・耳鼻咽喉科が受けた被害は甚大で、他の診療科と比較しても、休業や廃業になったクリニックの件数が多いです。

現状は特に負債などを抱えていない状態であっても、将来的に経営状況がさらに悪化していくことを見越して、早めに閉院することを選択する場合もあります。

勤務医に転職する

クリニックにより1日の来院患者数は大きく異なりますが、一般的に開業医は勤務医より多忙である傾向にあります。
仮に人口が少ない地方のクリニックだとしても、周囲に競合となる医療機関がなければ、必然的に患者は集中します。

利益を追求する分には、来院患者数が増加することは非常に喜ばしいことですが、多すぎても仕事ばかりに時間を費やす生活になってしまいます。
例え収入が下がってしまっても、家庭やプライベートを優先し、多忙な開業医から勤務医に転職する人は少なくありません。

クリニックの閉院にかかるコスト

クリニックを閉院・廃業する際に発生するコストについて解説していきます。
規模や診療科によって異なりますが、一般的には合計で1,000万円ほど必要になるケースが多いです。
以下の費用が必要になるため、一つひとつ解説していきます。

  • 建物の復元・取壊し費用
  • 残債の清算
  • 医療機器の処分費用
  • 備品・医療廃棄物の処分費用
  • 従業員への退職金
  • 法的手続きの諸費用
  • 税理士などへの報酬

建物の復元・取壊し費用

建物を借りてクリニックを運営していた場合は、基本的に内装や外装を元の状態に復元し、貸主に返す必要があります。
土地のみを借りている場合は建物そのものを取り壊さなければいけませんが、そのようなケースにおいては、復元や解体のための費用が発生します。

解体費用の相場は1坪あたり3万〜4万円ほどですが、業者によっても異なるため、複数の業者から相見積りを取ることをおすすめします。

法的手続きの委託費用

個人診療所でも医療法人でも、閉院時には複数の機関において法的手続きを行う必要があります。
それ自体の申請費用は少額ですが、手続きを税理士などの専門家に委託する場合は、その分の報酬を支払う必要があります。

クリニックの規模や税理士事務所によって報酬は異なりますが、一般的には10万〜20万円ほどである場合が多いです。

従業員への退職金

クリニックを閉院する際、それまで所属してくれていたスタッフには退職金を支払います。
相場は「基本給の半額×勤続年数」となっているため、現金や生命保険によって積み立てておくことが大切です。

残債の清算

クリニックの開業や運営には多額の費用が発生するため、もともと借金をしていた方も多いでしょう。
閉院時には、そのような残債もきちんと清算しなければいけません。

医療機器の処分費用

  • レントゲン装置
  • 放射線治療装置
  • CT
  • 超音波診断装置

クリニックには、これらのような大型の医療機器が少なからず設置されています。
そのような機器類は、専門業者に買い取ってもらう、あるいは無償で引き取ってもらうことで処分することができます。

しかし、年数の経過などにより、機器の価値が下がっていると、処分費用がかかってしまうことがあります。
リース契約によって利用していた医療機器に関しては、リースの残債、あるいは違約金を支払わなければいけません。

備品・医療廃棄物の処分費用

医療機器のほか、細々とした備品や医療廃棄物も処分する必要がありますが、薬剤や感染性廃棄物は取扱いに十分注意する必要があります。
廃棄物によっては専門業者に処分を委託しなければいけませんが、閉院時には大量の医療廃棄物が発生するため、その分費用も高額になります。

病院を廃業する際の注意点

例え致し方ない理由であっても、クリニックを閉院する際には相応の責任が伴います。
実際に閉院を選択する際には、以下の点にご注意ください。

  • カルテ・レントゲンデータは保存しておく
  • 麻薬の免許廃止・在庫処分
  • 3ヶ月前までに従業員・患者に通達する

カルテ・レントゲンデータは保存しておく

クリニックが閉院したとしても、一部のデータや記録は決められた期間、保管しておく必要があります。
例えばカルテは5年、レントゲンデータは3年間保存しておくことが義務付けられているため、誤って廃棄してしまわないように注意しましょう。

麻薬の免許廃止・在庫処分

閉院によって今後麻薬の取り扱いがなくなるのであれば、麻薬管理者・麻薬施用者の免許は忘れずに返納しましょう。
免許証だけでなく、在庫の廃棄に関しても麻薬廃棄届を提出しなければいけません。

3ヶ月前までに従業員・患者に通達する

閉院が決定した場合は、できるだけ早くスタッフや通院患者にその旨を通達することが望ましいです。
スタッフは新しい勤務先を探す必要があり、通院患者も他の医療機関に引き継がなくてはならないため、遅くても3ヶ月前には通達しておきましょう。

閉院以外の選択肢を検討しよう

前述した通り、クリニックの閉院には様々なコストがかかり、注意点も多いです。
スタッフや患者にも少なからず負担をかけることになるため、可能であればクリニックを存続させることが望ましいでしょう。

もし後継者が親族や知人の中で後継者が見つからない場合でも、第三者承継によってクリニックを存続させられる可能性があります。
スタッフの雇用や通院患者の信頼を守るためにも、閉院の前に一度検討してみましょう。

ただし、クリニックの経営状況が芳しくないと、その分第三者承継が成功する可能性は低くなります。
業績を向上させ、後継者になりたいと思えるクリニックにすることが、医業承継を成功させるポイントになります。
以下のコラムでもクリニックの事業承継について解説していますので、合わせてご覧ください。

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