近年、後継者不在や業績の悪化により廃業を選ぶ会社が増えてきているのはご存じでしょうか。
M&Aでは成長企業を買収することが一般的ですが、廃業を目前にしている企業を買収することにもメリットがあります。
ただし、廃業する会社を買収する際にはリスクも当然あるため、しっかり理解しておく必要があります。
本記事を参考に、廃業会社を買うことのメリット・デメリットを整理しておきましょう。

  1. 日本における廃業の現状
  2. 廃業する会社を買うメリット
  3. 廃業する会社を買うデメリット
  4. 廃業する会社を買う際の相場
  5. 廃業する会社を見極めるポイント
  6. まとめ

日本における廃業の現状

廃業とは、理由を問わず、会社や事業を辞めることを意味します。

今の日本の現状として、ここ数年で大きく廃業の件数が増加しています。
東京商工リサーチの2020年の調査によると、2020年の休廃業・解散・倒産の件数は57,471件にも上り、2000年以降の調査で最多件数を更新しました。
また、中小企業庁が公表している2019年のデータによると、休廃業・解散・倒産している企業の約6割が黒字廃業であることがわかっています。

経営者が廃業を選ぶ理由としてよく挙げられるのは、経営者の高齢化、コロナ禍による業績悪化、後継者不足の3つです。
この3つは日本の会社全体が抱えている問題であり、廃業の件数が今後も増えていくことが予想されます。

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廃業する会社を買うメリット

廃業する会社を買収すると聞くと、デメリットが大きいのではないかと思う方が多いと思いますが、以下のようにメリットがたくさんあります。

  • 安く買うことができる
  • 優秀な人材やノウハウを獲得できる
  • 交渉をスムーズに行うことができる
  • 新規事業を始めやすい
  • 節税効果を期待できる

メリットをそれぞれ説明していきます。

安く買うことができる

一般的なM&Aでは、売り手企業は事業の発展や売却益の獲得を目指すため、高い価格での売却を試みます。
一方で、廃業する会社を買う場合、売り手は後継者不在や倒産の回避が目的です。
さらに廃業会社の経営者の多くは登記や各種手続きで時間と労力を割かれており、買い手が見つかればすぐにでも売りたいと考えているので、比較的安く買収することができます。

ただし、安いから買えばいいというわけではなく、黒字化できそうかを見極めて買う必要があります。

優秀な人材やノウハウを獲得できる

廃業を検討している会社を買収することで、在籍していた優秀な従業員を引き継ぐことになります。
また、優秀な人材だけでなく、長年の試行錯誤により生み出したその会社特有のノウハウや設備を所持している可能性もあり、シナジー効果による既存事業の強化も狙うことができます。

ただし、買おうとしている会社のノウハウや設備が自社事業に合っているのかを慎重に見極めた上で、買収を検討するべきです。

交渉をスムーズに行うことができる

成長を目的とした売り手企業のM&Aでは、条件面でなかなか折り合いがつかず、交渉が難航する場合が多いです。
しかし、廃業を目前とした会社が売りに出している主目的は、企業や事業の存続や従業員の雇用の継続なので、買い手の条件をのんでくれる場合が多く、買収もスムーズに行うことができます。

新規事業を始めやすい

一般的に、新規事業をゼロベースで立ち上げる場合は、優良な取引先や顧客の獲得、その領域に強い従業員の育成など、基盤づくりに時間も費用もかかってしまいます。
利益を出せるようになるまでにはさらに時間がかかります。
しかし、廃業寸前の会社を買うケースでは、既に取引先や人材、ノウハウといった経営資源が揃っており、完成された事業を即座に運営できます。
自力で新規事業を始めるより、失敗のリスクを減らしつつ、時間をかけずに事業拡大を狙うことが可能です。

節税効果を期待できる

経営赤字により廃業を検討している会社では繰越欠損金が発生しています。
しかし、その会社を買うことで繰越欠損金を引き継ぐことができれば、買い手企業の利益と相殺して節税も可能です。

ただし、この繰越欠損金の利用については以下の3つの条件を満たす必要がありますので、注意してください。

  • 売り手企業と買い手企業が同業種であること
  • 両社の会社規模が違いすぎないこと(5倍以内)
  • 買収後も、買収する企業の事業を継続すること

廃業する会社を買うデメリット

もちろん廃業する会社を買うことにデメリットやリスクもありますので、把握しておきましょう。

  • 簿外債務のリスクがある
  • 売り手企業の従業員が離れる可能性がある
  • 売り手企業が見つからない

簿外債務のリスクがある

貸借対照表上に記載されない債務を簿外債務と言います。
簿外債務を抱えた会社を買収すると買い手企業がその簿外債務を負担しなければなりません。
あまり多額の簿外債務があると、破綻してしまうリスクもあり、危険な要素となってきます。

ただ、簿外債務と聞くと不正を隠しているようなイメージを抱かれるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
以下に簿外債務の種類をまとめておきます。

  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 未払いの残業代
  • 買掛金
  • 債務保証
  • リース債務
  • 未払いの社会保険

簿外債務が起こす問題の対策として、念入りなデューデリジェンスを徹底することが挙げられます。
会計から税務・法務・人事など様々な側面から簿外債務の有無を確認しましょう。
また、契約書に表明保証を記載することも対策になります。
表明保証により、開示された情報が正しく、嘘でないことを約束してもらうことで、後から虚偽が発覚した時に損害賠償請求や契約解除を請求できます。

M&Aにより簿外債務が明らかになるケースは少なくありませんので、廃業をする会社の買収を検討の際は注意しましょう。

売り手企業の従業員が離れる可能性がある

会社を買うということは、買収先の企業の従業員を引き継ぐということです。
しかし、買収に対して売り手側の従業員の理解を得られないと、従業員の退職を招いてしまいます。

長年働いてきた従業員は会社に愛着を持っていることも多く、自分勝手に経営方針や事業の取組み方などを変えてしまうと、彼らの反発を生んでしまいます。
また、買い手企業の環境に馴染めなかったり、人間関係のトラブルが起きたりと、売り手側の従業員が退職してしまう理由は様々です。

このような事態を防ぐために、M&A前にも売り手企業の経営者や役員からヒアリングを行ったり、M&A後も売り手側の従業員と密なコミュニケーションをとることが重要になってきます。

売り手企業が見つからない

日本においてはまだまだM&Aの認知が低い状態にあります。
帝国データバンクが2019年に行ったM&Aへの関わり方に関する調査では、「売り手となる可能性がある」「買い手・売り手両方の可能性がある」と答えた企業は、全体の13.7%という結果が出ています。
このことからも売り手になり得ると考えている企業が少なく、ましてM&Aを選択肢に入れる廃業寸前の企業はもっと少ないと考えられるので、売り手企業を見つけるのが難しい現状だと言えます。

廃業する会社を買う際の相場

M&Aを行うとなると考慮しなければいけないのが取引価額の相場ですが、結論から申し上げますと、相場を言い切ることは難しいです。
企業によって利益や資産、負債は大きく異なり、事業や会社の将来性によっても変わってくるためです。
そのため、取引価額を実際に計算することを推奨します。

M&Aの譲渡価額を決めるときの一般的な計算式は「時価純資産+実質営業利益」です。
時価純資産とは、時価評価した資産から時価評価した負債を控除したものを指し、企業の価値がどれくらいかを判断する指標としてよく用いられます。
実質営業利益は、「売上総利益ー諸経費」で計算された営業利益に節税対策額を加えて計算されます。

本記事を参考に、目安となる取引価額を計算してみてください。

廃業する会社を見極めるポイント

どの廃業会社を選べばいいのかというのはとても難しい課題になってきます。
最終的に買い手の経験や勘に頼るところが多くなってくるかもしれませんが、一般的に見ておくべきだと言われているポイントは最低限チェックしておきましょう。

  • 財務管理体制をチェックする
  • 廃業する理由や目的を明確化する
  • 債務超過しているかどうかを確認する

財務管理体制をチェックする

経営状態の悪化で廃業する会社というのは、財務管理が杜撰になっている場合が多く、簿外債務が生じていたり、個人の資産と会社の資産を分離していない可能性もあります。
売り手企業の杜撰な管理は買収後の計画を大きく狂わせる原因になりますので、廃業する会社を買う前に売り手企業の資産や債務、財務状況に対してデューデリジェンスを行い、専門家の力を借りて精密な調査をしてもらいましょう。

廃業する理由や目的を明確化する

廃業する会社を買う場合は、売り手企業が廃業を検討する理由を明確にしておきましょう。
「黒字経営だけども後継者がいないために廃業する」という理由と「赤字経営で負債が拡大する前に整理したい」という理由とでは、買収後のアプローチが変わってきます。

理由を明らかにしたがらない会社は、隠しておきたい債務等を抱えている可能性も考えられるので、廃業理由や目的を聞くことが、自社が買うべき企業かを判断するためのスクリーニングにもなります。

債務超過しているかどうかを確認する

債務超過しているかどうかは要注意です。
債務超過とは会社の資産総額を負債総額が上回っている状態を指します。

一般的に、債務超過している会社は廃業という選択肢はとれず、破産かM&Aによる売却しか選べません。
債務超過している会社が売りに出しているのは、M&Aの買い手に債務超過を引き継いでもらうことを目的としています。
もちろん非常に安く買い取ることはできますが、裁判所の介入によって取引が無効になる可能性がありますので、かけた時間が無駄にならないように注意が必要です。

まとめ

日本の廃業企業が増加している現状を考えると、経営者は廃業会社を買うという選択肢に向き合う可能性が高くなってくるでしょう。
適当に売り手企業を選んでしまうと膨大な被害が出てしまいますが、見極めるポイントを抑えて慎重にM&Aを行えば、理想的な事業拡大を実現できます。

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