中小企業のM&Aが盛んになってきて、スモールM&Aという単語を耳にしたことがあるという経営者も少なくないと思います。
「新規事業がしたい」、「大手企業ほど資金力はないが、会社の成長のために企業買収をしたい」という方におすすめなのがスモールM&Aです。

スモールM&Aは通常のM&Aと異なる部分も多くありますので、本記事を参考にスモールM&Aについて理解して、事業拡大を成功させましょう。

  1. スモールM&Aとは?
  2. スモールM&Aを行うには?
  3. スモールM&Aのメリット
  4. スモールM&Aのデメリット
  5. スモールM&Aの手法
  6. スモールM&Aの流れ
  7. スモールM&Aを行う際の注意点
  8. まとめ

スモールM&Aとは?

スモールM&Aとは、小規模の会社や個人事業の会社を対象としたM&Aのことを言いますが、正式な定義があるわけではありません。
一般的には以下の条件を満たすものとされています。

  • 取引対象が小規模企業・個人企業
  • 譲渡・買収の金額が1億円以下
  • 取引対象の売上が1,000万円~5億円程度
  • 従業員が数人~30人程度

昨今の日本では経営者の高齢化、後継者不足、事業の悪化などによる事業承継の手段としてのM&Aが増加しています。

スモールM&Aで取り扱うのは通常のM&Aよりも小さい企業ではありますが、経営者1人で行うことは難しいです。
では、どのようにしてスモールM&Aを行えば良いのかを次で解説いたします。

スモールM&Aを行うには?

スモールM&Aを行うには、以下の4種類の方法があります。

  • M&Aマッチングサイト
  • M&A仲介会社
  • 公的機関
  • 専門家への相談

M&Aマッチングサイト

マッチングサイトは時間や場所を問わずに利用できるのが最大のメリットです。
また、仲介会社や専門家を利用するよりも費用が安く済みます。

ただし、他の方法と比べ、サポートが手薄になる傾向があり、トラブルに発展する可能性もありますので、十分にご注意ください。

過去のコラムでおすすめのマッチングサイトをまとめておりますので、是非ご覧ください。

【厳選】事業承継のおすすめマッチングサイト!料金・費用の仕組みを解説

事業承継において、最も大きなハードルと言っても過言ではないのが「後継者探し」です。 少子高齢化が進む現代の日本…

M&A仲介会社

M&Aの取引相手を探す手段としてメジャーなのが、仲介会社の利用です。
会社同士のマッチングから契約締結まで一貫してサポートを行ってくれます。

手数料は比較的高くなってしまいますが、幅広い分野の専門知識を有する人材が在籍しているため、質の高いサポートを受けることが可能です。

近年はスモールM&Aに特化した仲介会社も増えてきていますので、スモールM&Aを行いたい方には小規模な案件に特化したM&A仲介会社の利用を推奨します。

公的機関

主な公的機関として挙げられるのは、中小企業基盤整備機構が設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」という公的相談窓口や全国の商工会議所などが挙げられます。

特に、事業承継・引継ぎ支援センターでは無料で質の高いアドバイスを受けられ、仲介会社等を利用した後のセカンドオピニオンとしての活用も有効でしょう。

メリットが多く魅力的ですが、企業の価値評価といった実務面については外部の専門家への依頼費用がかかってきますので、ご注意ください。

専門家への相談

M&Aでは会計や税務、法務などの様々な分野の専門知識を必要とします。
そこで税理士や会計士、弁護士といった専門家に相談することで、専門知識を要する業務において質の高いサポートを受けることができます。

ただし、案件探しの面においてはマッチングサイトや仲介会社には劣ってしまうため、注意が必要です。

スモールM&Aのメリット

ここからはスモールM&Aによる買収のメリットを1つずつ解説していきます。

  • 取引先やマーケットの拡大
  • 期間の短縮と費用の削減

取引先やマーケットの拡大

スモールM&Aを実施することのメリットとして、取引先やマーケットを拡大できることが挙げられます。

新規事業を立ち上げる際に、新たに取引先を開拓したりマーケットの拡大を図ったりするには時間も労力もかかってきます。
しかし、スモールM&Aによれば事業だけでなく、取引先などの顧客基盤も引き継ぐことができます。

また、自社の事業と融合させることで財務状況を回復させることができれば、利益の増加に繋げることも可能です。

期間の短縮と費用の削減

通常のM&Aでは、デューデリジェンスや契約書のリーガルチェック、M&Aアドバイザーへの報酬など、案件が大きいほど費用は積み重なり、成約までの時間もかかってしまいます。

一方で、スモールM&Aであれば、成約までの期間も短く済み、かかる費用も安く抑えられます。

また、資金力をある程度持つ企業であれば、スモールM&Aの案件をスピーディーに行うことができるため、年間に複数件の買収が可能になります。

スモールM&Aのデメリット

魅力的なメリットがある一方でデメリットも存在しますので、それぞれのデメリットとその対策まで押さえておきましょう。

  • 締結後の簿外債務発覚
  • 従業員の離職リスク
  • 情報量の不足

締結後の簿外債務発覚

スモールM&Aだけに限った話ではありませんが、交渉後に簿外債務が発覚して、思わぬマイナス資産が生じたというケースは少なくありません。

売り手企業は少しでも企業の価値を上げるために貸借対照表を良く見せ、交渉を有利に進めたいという意図があります。
契約時に表明保証条項を設定していなかった場合、その負債は買い手企業が負担しなければいけませんので、ご注意ください。

以下に簿外債務としてよく知られるものを列挙しておきます。

  • 未払いの残業代
  • 買掛金
  • 債務保証
  • リース債務
  • 未払いの社会保険金
  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 訴訟リスク

従業員の離職リスク

スモールM&A後に従業員が離職してしまい、事業が回らなくなったというケースも存在します。
売り手企業に長年勤めてきた従業員ほど、買い手企業の経営方針や事業に対して反発しやすいです。

売り手企業の従業員とのコミュニケーションや待遇面の扱いについては丁寧に行いましょう。

情報量の不足

スモールM&Aで最も注意すべきは、情報量が不足することです。

一般的なM&Aではある程度規模が大きい企業が取引相手となるため、財務諸表だけでなく、インターネット上の口コミやIRなどの豊富な情報をもとにM&Aの実施の可否を判断できます。

一方、スモールM&Aでは零細中小企業や個人事業主が対象となってくるため、財務諸表がしっかり作られていない、経営計画書が無いなど、情報が不足しがちです。

こうしたリスクを回避するためには、売り手に提供される情報だけでなく、経営陣や従業員へのヒアリング、不動産の実地調査などを行うことが重要になります。

スモールM&Aの手法

スモールM&Aでは主に以下の2種類の手法が用いられます。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡

それぞれメリット・デメリットや注意点があります。
詳細は過去のコラムをご覧ください。

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スモールM&Aの流れ

具体的にどういった流れでスモールM&Aが行われていくのかを解説いたします。

  1. 事前準備
  2. 買収先の企業を選定
  3. 交渉開始
  4. デューデリジェンス
  5. 契約締結

1.事前準備

まず事前準備として、スモールM&Aをする目的や方針を整理することを行います。

目的等が明確でないままM&Aを行っても、期待していた効果を得られなくなってしまう可能性が出てきます。
経営戦略や事業戦略に基づいて、それを達成する上で本当にM&Aが有効なのかを検討しましょう。

また、どのM&AアドバイザーやプラットフォームにスモールM&Aのサポートを依頼するかも決める必要があります。
実績や利用者の評判、業務の範囲の幅などの条件を基に、どこにサポートを頼むかについて判断すると良いでしょう。

2.買収先の企業を選定

M&Aアドバイザー等の協力を得ながら、買収先の企業を選定します。

まずはノンネームシートの提供・確認を行います。
ノンネームシートとは、企業を特定できない範囲で売り手企業の情報をまとめた資料です。

注意点としては、前提としてノンネームシートには抽象的な情報しか載っていないことを理解しておきましょう。
一見、業績や商品が悪くても、将来性が高い事業に取り組んでいたりします。
少しでも興味を持ったら、結論をすぐに出さず、候補に残しておきましょう。

次に秘密保持の契約を結びます。
買い手が得た売り手の情報をM&A以外で使用したり、第三者に開示するといった情報漏洩のリスク回避のために行われます。

そして最後に売り手企業の詳細な情報を得ます。
財務情報や会社概要、売り手の強みなどが載ったIM(Information Memorandum:インフォメーション・メモランダム)を基にスモールM&Aの交渉を進めるかどうかを検討します。

3.交渉開始

取引先の選定が終わったら、いよいよ交渉開始です。

まずはトップ面談が行われ、経営理念やスモールM&A後の方針を確認し合います。
相手との相性を見極めるタイミングと言えるでしょう。

その後、具体的な条件面の交渉をし、双方の合意が得られ次第、基本合意書の締結に移ります。

4.デューデリジェンス

最終の交渉に向け、売り手の企業価値をできるだけ正確に把握する必要がありますので、売り手の実態を把握し、問題点やリスクを洗い出すためのデューデリジェンスを行います。

デューデリジェンスは義務ではありませんが、行わなかった場合、簿外債務や粉飾決算が後から発覚するリスクが生じます。

調査の範囲は多岐にわたり、それぞれの調査には専門知識を要するため、公認会計士など外部に依頼するケースが多いです。

デューデリジェンスの中でも特に重要とされる5つの調査分野を以下に列挙しておきます。

  • 財務デューデリジェンス
  • 法務デューデリジェンス
  • 税務デューデリジェンス
  • 事業デューデリジェンス
  • ITデューデリジェンス

5.契約締結

最後に、最終契約に向けた最終交渉を行い、交渉を終え次第、スモールM&Aの契約を正式に締結します。

そして、クロージング、PMI(Post Merger Integration:買収後の経営統合作業)を行い、スモールM&Aの手続きは終了となります。

スモールM&Aを行う際の注意点

スモールM&Aの手続きを行う際に気を付けるべき点がいくつかありますので、それぞれ解説していきます。

  • 手数料を吟味する
  • デューデリジェンスを抜け目なく行う
  • 長期的に考える

手数料を吟味する

スモールM&Aを扱う業者は増えてきてはいますが、中には悪徳業者も存在します。

最悪のケースでは法外な手数料を請求されかねませんので、他のアドバイザーなどと比較するなど、手数料体系は慎重に確認しましょう

デューデリジェンスを抜け目なく行う

スモールM&Aは通常のM&Aよりもプロセスを簡易化する傾向がありますが、あまりプロセスを省略しすぎると、後になって深刻な損失を被る恐れが出てきます。

特に注意すべきは、簿外債務や偶発債務の存在です。

スモールM&Aだからといって油断せず、念入りにデューデリジェンスを行ってください。

長期的に考える

スモールM&Aを行う場合、M&A後も見越しておく必要があります。
買収先の売上や経費を把握しつつ、M&A後の施策でどこまで向上させることができるのかまで予測した上でM&Aを行いましょう。

スモールM&Aと言ってもある程度の費用、時間、労力を有します。
長期的に見て、会社の成長に繋がる売り手企業を買収しましょう。

まとめ

スモールM&Aは非常に費用対効果の高いM&Aだと言えます。
日本の多くの企業が抱える後継者不足の問題にも大きく貢献し、スモールM&Aは今後さらに増加していくでしょう。
しかし、かかる費用が少なく、期間も短く済むからといってあまく見ていると、将来的に大きな損失を被る可能性も出てきますので、油断せず慎重に手続きを行いましょう。

名古屋事業承継センターではM&Aや事業承継に関するご相談を承っておりますので、気軽にご連絡ください。

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