事業承継では、しっかりと会社の現状を分析し、計画を立てることが大切です。
計画を立てる際に重要なのは、「事業承継のどの場面で、どのような資金が必要になるか」をしっかりと把握することです。
今回の記事では、事業承継でどのような資金が必要になるかを中心に、資金調達方法や節税対策についても解説いたします。
事業承継での必要資金
事業承継をする際には、様々な資金が必要になり、場合によっては会社や後継者にとって大きな負担となるものもあります。
代表的な必要資金には以下の4つがあります。
- 株式の買取り資金
- 分散株式の集約に必要な資金
- 納税資金(贈与税・相続税)
- 税理士などの専門家への依頼料
株式の買取り資金
事業承継をする際に大きな障壁となるのは、後継者における株式買取り資金の調達です。
親族や従業員が後継者の場合、大多数の株式を先代が保有しているが、実際の経営業務は後継者に引き継いでいるということは珍しくはありません。
しかし、株式会社の本質的な所有者は株主であるため、完全に事業承継を完了させるためには、少なくとも過半数の株式を後継者へ移転させる必要があります。
後継者への株式の移転方法は主に以下の3つがあります。
- 株式譲渡
- 株式贈与
- 相続
株式譲渡の手法では、後継者の株式買取りとしての資金が必要になります。
従業員や親族などに株式譲渡で事業承継を行う場合は、一つ注意する点があります。
それは、不適正な価額での株式の売買を行った場合、税務上のリスクがあるということです。
後継者に対して、適正価額を大幅に下回る額で譲渡した場合、適性価額との差額が贈与とみなされ、贈与税が発生する場合があります。
株式贈与や相続では、株式異動での資金調達は必要ありませんが、それに伴う納税という面で資金が必要になります。
税金に関する資金に関しては「納税資金(贈与税・相続税)」にて詳しく説明します。
分散株式の集約に必要な資金
株式が少数株主に分散していた場合、その集約で株式買取り資金が必要になります。
この買取り資金は、後継者が用意するケースと会社が用意するケースの2つの場合が考えられます。
少数株主に株式が分散していてもあまり問題にならない場合もありますが、
- 株主総会の招集手続きなどの管理コスト
- 意思決定が妨害されるリスク
- 少数株主が先代とは関係性があるが、後継者とは面識がなくなってしまう
などの問題が発生することも考えられます。
株式が分散していた場合、事業承継を機に株式集約を検討しても良いかもしれません。
株式の集約方法に関してはこちらのコラムにて詳細に解説しているので、よろしければご覧ください。
株式分散のリスクとは?集約方法や防止策について詳しく解説!
分散した株式を集約させることは、想像よりもはるかに労力がかかります。 仮に、会社を起業した現社長が株式を分散さ…
納税資金(贈与税・相続税)
株式贈与や相続で、事業承継が行われた場合、後継者に対して金額に応じた贈与税や相続税が課されます。
贈与税、相続税のいずれにおいても、会社の業績が良く、価値が高ければそれだけ高額になる可能性があり、税金面での問題も発生しやすくなります。
表にあるように贈与税は、10%〜55%と贈与額によっても税率が大きく変わります。
課税価格 | 税率 |
200万円以下 | 10% |
300万円以下 | 15% |
400万円以下 | 20% |
600万円以下 | 30% |
1,000万円以下 | 40% |
1,500万円以下 | 45% |
3,000万円以下 | 50% |
3,000万円超 | 55% |
(※一般贈与財産用)参照元:国税庁
相続税は、事前に発生時期を予想できるものではないため、事前にしっかりと対策しておくことが大切です。
相続税の税率は以下のようになっています。
取得金額 | 税率 |
1,000万円以下 | 10% |
3,000万円以下 | 15% |
5,000万円以下 | 20% |
1億円以下 | 30% |
2億円以下 | 40% |
3億円以下 | 45% |
6億円以下 | 50% |
6億円超 | 55% |
(※法定相続分に応ずる取得金額)参照元:国税庁
相続での事業承継は、遺留分の侵害に注意する必要があります。
相続人には、それぞれ最低限もらえる遺産(遺留分)が保障されています。
事業承継として、複数の相続人の中の1人に株式を相続させる場合、この遺留分を侵害してしまう可能性があります。
このような遺留分の侵害が懸念される場合は、遺留分に関する民法の特例(除外合意)を活用することで解決することができます。
税理士などの専門家への依頼料
事業承継の手続きは専門的なものが多いため、税理士などの専門家に相談、依頼を行うことがほとんどです。
そのため、少なからず専門家への依頼料を用意する必要があります。
引継ぎを行う株式などの資産額や、相続税や贈与税の算出だけであれば、税理士や会計士への依頼だけで済むこともあります。
しかし、事業承継に伴いトラブルが発生した場合や相続に関する相談をするのであれば、弁護士への依頼も必要になるかもしれません。
事業承継M&Aパートナーズでは、事業承継専門のコンサルタントが20名以上在籍しており、どのような事案であっても一気通貫でご対応いたします。
事業承継でお困りごとがあれば、ぜひ一度初回無料相談をご利用ください。
事業承継での資金調達方法
事業承継での代表的な資金調達の方法として以下の4つを紹介します。
- 「事業承継・集約・活性化支援資金」の活用
- 民間金融機関からの融資
- 事業承継・引継ぎ補助金の活用
- 信用保証協会の活用
「事業承継・集約・活性化支援資金」の活用
事業承継に関する政府の支援は多くありますが、「事業承継・集約・活性化支援資金」は資金調達での支援制度として代表的なものです。
「事業承継・集約・活性化支援資金」の概要
「事業承継・集約・活性化支援資金」は、政府系金融機関である日本政策金融公庫により運営されている制度です。
他の機関と比較しても低金利で融資を受けることができ、最大で7億2,000万円の融資を受けることができます。
返済期間は、設備資金として活用する場合は最大で20年以内、運転資金としての活用であれば最大7年以内となっています。
利率は、下記で紹介するどの分類で融資を受けるかによって異なり、月毎に更新されるため、詳細に関しては日本政策金融公庫のホームページでご確認ください。
「事業承継・集約・活性化支援資金」の利用要件
「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用するためには、以下の1〜5の内いずれか1つに該当する必要があります。
- 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む。)と共に事業承継計画を策定している方
- 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方
- 事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換)または新たな取り組みを図る方(第二創業または新たな取り組み後、おおむね5年以内の方を含む)
- 中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人
- 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方
(※引用元: 日本政策金融公庫ホームページ)
民間金融機関からの融資
これまで融資を受けてきた金融機関、または他の民間金融機関から融資を受けるという方法もあります。
ただ、民間金融機関から融資を受ける場合は、後継者の信用や会社の保有する資産によって、融資の可否、融資額や融資条件が異なります。
場合によっては、融資を受けられなかったり、希望する金額に届かないという場合も考えられます。
事業承継・引継ぎ補助金の活用
事業承継・引継ぎ補助金とは、政府が事業承継を支援するために推進している補助金を指します。
事業承継・引継ぎ補助金は、以下の3つの補助事業に分類されています。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業・再チャレンジ事業
補助を受けるためには、一定の要件を満たした上で申請手続きを行い、採択される必要がありますが、経営革新事業と専門家活用事業では、最大で600万円の補助金を受け取ることができます。
事業承継・引継ぎ補助金の詳細に関しては、こちらの記事で解説しているので、検討の際に参考にしていただければ幸いです。
事業承継・引継ぎ補助金とは?概要や申請の流れについて解説
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継に関する経費の一部を補助し、国全体の経済の活性化を図るために、政府が推進して…
信用保証協会の活用
信用保証協会から中小企業が信用保証されることで、融資額を増やすことができるなど、融資を受けやすくなるというメリットがあります。
信用保証協会は、融資を受けた中小企業が万が一返済できなくなってしまった場合に、代わりに融資元の金融機関へ弁済します。
事業承継に際しての資金調達で、後継者だけの信用では思ったような融資が受けられなかった場合、信用保証協会を活用することで、希望する額の融資を受けることができるかもしれません。
ただ、信用保証協会を活用する場合、融資元の金融機関に支払う利子とは別に、信用保証協会に対して保証料を支払う必要があることに留意しましょう。
信用保証協会は各都道府県に設置されており、各協会によっても制度が異なります。
そのため、自身が受けられる信用保証に関して詳しく知りたい場合は、お近くの協会へ相談することをおすすめします。
事業承継での節税対策
事業承継を行う際、想像よりも多くの資金が必要になることもあります。
毎年多くの利益を出し、成長している優良企業ほど自社株の評価額が高くなり、事業承継の際の相続税や贈与税が高くなる傾向があります。
後継者の負担を減らし、その後の会社経営を好調にするためにも適切に準備し、節税対策を施すことをおすすめします。
今回は、数ある節税対策の中でも代表的な以下の3つについて解説いたします。
- 事業承継税制の活用
- 役員退職金の支払い
- 不動産の購入
事業承継税制の活用
上記のように、優良企業であればそれだけ自社株式を引き継ぐ際の後継者への負担が大きくなってしまいます。
しかし、事業承継税制を活用すれば、自社株式の引継ぎで後継者へ発生する贈与税・相続税が大幅に猶予され、その後、一定の場合では免除されます。
事業承継税制には、2009年から設置されている「一般措置」と2018年より新たに設置された「特例措置」の2つの制度があります。
「特例措置」の活用には特例承継計画の策定や適用期限が定められており、手続きが少々複雑になる分、「一般措置」よりも手厚い制度となっています。
利用には要件を満たし、準備や手続きをする必要はありますが、ぜひ一度検討することをおすすめします。
事業承継税制の詳細はこちらで解説しているので、よろしければご参考ください。
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役員退職金の支払い
役員退職を上手く活用することで、株式評価額が引き下がり、それに伴い税金額も減少させることができます。
役員退職金の支払いによって、株式評価額が引き下がる理由としては、以下の2つがあります。
- 退職金の支払いは損金に計上され、会社全体の「利益金額」が減少するから
- 退職金の支払いにより、会社の純資産価額が下がるから
また、得た退職金を納税資金として活用することができるのも、この節税対策の魅力です。
しかし、役員退職金の準備に全額損金の生命保険を活用していた場合、退職金によっての株式評価額の減少が見込めないため注意が必要です。
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不動産の購入
不動産を購入することも節税対策に繋がります。
現金を不動産に変えることで、課税対象となる資産としての評価が低くなり、結果的に節税対策になります。
また、賃貸マンションなどの収益物件の購入も株価を下げる効果が期待できます。
理由は、貸家建付地であれば時価の60~70%程度で評価されるため、購入額より低く評価されるからです。
支払いを現金で行えば資産が減少し、借入金で行えば負債が増加するため、純資産が減ることも節税対策に繋がります。
事業承継では必要資金の把握が重要
今回は、事業承継に関する資金について解説いたしました。
会社経営において資金は、要とも言える存在です。
事業承継の成功には、どのような場面でどれだけの資金が必要かをしっかりと把握し、自社に合った資金調達方法、節税対策を施すことが必要不可欠です。
事業承継M&Aパートナーズでは、資金調達から節税対策、相続に関する対策まで幅広く対応させていただいております。
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