分散した株式を集約させることは、想像よりもはるかに労力がかかります。
仮に、会社を起業した現社長が株式を分散させたまま亡くなってしまうと、事態はさらに複雑になり、後継者が集約するのが困難になってしまう恐れもあります。

今回のコラムでは、株式分散のリスクやその対策、集約方法まで詳しく解説いたします。
是非最後までご覧ください。

  1. 株式分散とは
  2. 株式分散によるリスク
  3. 株式分散の原因
  4. 分散株式の集約方法
  5. 株式分散を防ぐための事前対策
  6. まとめ

株式分散とは

株式の分散とは、会社の発行する株式が1人ではなく、複数人により保有されてる状態のことを指します。
上場している会社であれば、株主が不特定多数で構成されている状態は、当たり前であると言えますが、非上場の中小企業ではいくつかの問題が生じる可能性があります。

株式分散によるリスク

株式分散によるリスクやデメリットとしては、主に以下の3つがあります。

  • 少数株主の権利行使によるリスク
  • 株主の管理・対応コスト
  • M&Aの障壁になる可能性

少数株主の権利行使によるリスク

会社法にて株主は、会社の所有者であると定められています。
そのため、少数株主であったり、これまで経営に全く関わっていない場合でも、会社の所有者として権利を行使できます。

株主であれば、

  • 株主総会の議決権などの会社運営に参加できる権利
  • 配当金などの経済的な利益を受けることができる権利

などが主に認められており、株主に与えられる権利は、議決権又は発行済株式総数の保有割合で異なります。

少数株主の権利行使によって引き起こる可能性があるリスクとしては以下の3つが考えられます。

  • 意思決定が妨害されるリスク
  • 取締役解任請求のリスク
  • 株主代表訴訟のリスク

意思決定が妨害されるリスク

この場合、大きなリスクとなるのは、少数株主の意見によって会社の意思決定がスムーズにいかなくなる場合があることです。

会社にとって重大な決定をする際、株主総会での、

  • 特別決議(2/3以上の賛成が必要)
  • 特殊決議(3/4以上の賛成が必要)

が必要になります。
仮に、合わせて1/4超の株式が分散していた場合、特殊決議が必要となるような重大決定ができないといった最悪な事態も考えられます。

取締役解任請求のリスク

議決権又は発行済株式総数の3%の株式を6ヶ月間以上保有していた株主に関しては、取締役解任の訴えを提案できる権利があります。
訴えを受けた場合に必ず解任される訳ではありませんが、株主に対して適切に対応しなければいけません。

株主代表訴訟のリスク

また、1株でも持っていた場合、株主代表訴訟が提起される恐れがあります。
この訴訟は、役員が会社に対して損害を与えたにも関わらず、会社側が当役員に対しての責任を追求しない場合、株主が責任追求できるという制度です。

株主代表訴訟は、

  • 1株(※公開会社の場合は6ヶ月以上の保有要件あり)から訴訟が可能
  • 被害を受けた本人でなくても、訴訟が可能
  • 裁判所へ支払う手数料が、請求額に関わらず、一律13,000円と安価

上記の特徴からも分かるように、この訴訟は比較的簡単に起こすことができます。
株主代表訴訟のリスクは、経営者にとって株式分散の大きな不安要素だと言えます。

株主の管理・対応コスト

上述のように、株主は会社の保有者としての権利が認められており、例え1株しか保有していない株主であっても、権利の範囲内であれば対応しなければいけません。
議決権などの、会社運営に直接関わる権利でなくても、その他の権利行使によって、対応や手続きに多くの労力がかかる場合もあります。

以下に2つの管理業務をご紹介します。

  • 株主名義の書換え
  • 株主総会の招集手続き

株主名簿の書換え

株主が死亡し、その親族が株式を相続した場合には注意が必要です。
この場合、相続した株主からの請求があれば、会社の管理する株主名簿上で名義を書き換えなければなりません。
仮に多数の株主に分散していたら、それだけ多く、対応しなければいけません。

株主総会の招集手続き

また、株主総会を行う際の招集手続きも株主がいればそれだけ煩雑になってしまいます。
招集通知に不備があった場合、株主総会決議が取り消されてしまうこともあります。
最悪の場合、会社に対して責任追求がされてしまう恐れもあるため、招集に漏れがないか、細心の注意を払う必要があります。

M&Aの障壁になる可能性

経営者の中には、将来的な事業承継の手段としてM&Aを検討している方も少なくないと思います。
しかし、株式分散は前述したようなリスクを孕んでいるため、買い手からは嫌がられる傾向があります。
そのため、株式が分散している企業の場合、株式の集約を行なった上でM&Aを行うことをおすすめします。

株式の集約作業は想像以上に手間と時間がかかります。
現段階でM&Aを考えていない場合でも、いざという時にスムーズに手続きを進められるように事前に株式の集約を行っておくことをおすすめします。

株式分散の原因

株式が分散してしまう原因としては様々なものが考えられますが、代表的な3つの原因をご紹介します。

  • 名義株による分散
  • 相続による分散
  • 従業員・役員が自社株式を保有することによる分散

名義株による分散

1990年に行われた商法改正以前に設立された企業には、名義株により株式が分散してしまっている場合があります。

商法改正以前は、会社を設立するために最低7人以上の発起人が必要でした。
そのため、出資等も行わず、経営には全く関わらないものの、人数を揃えるために親戚や友人が名義人として名前を貸すということが少なくありませんでした。
そのような、書類での名義上の所有者と実際の株主とが一致していない株式を名義株と呼びます。

場合によっては、名義株が相続され、名義人の所在が不明になってしまう場合も考えられるので、早めに対処することをおすすめします。

名義株の対処法については、コラム後半の分散株式の集約方法にて解説いたします。

相続による分散

株式の所有者が亡くなり、その親族などに株式が分散してしまうというケースもあります。
仮に定款にて、株式譲渡制限を定めていたとしても相続による承継は制限の対象に入らないため、防ぐことができません。

相続人が複数いた場合は、それだけ多くの人に株式が分散してしまう恐れもあります。

従業員・役員が自社株式を保有することによる分散

従業員や役員に対して、自社株を持たせたことで、株式が分散してしまうケースもあります。
従業員や役員が自社株を持つことで、自身の働きが給料だけでなく、会社の価値向上による株価の上昇として還元されるため、モチベーションの向上の効果が期待できます。

ただ、株式を保有する役員や従業員との関係が悪化した場合に、会社の意思決定に悪影響が及ぶことも考えられます。

従業員や役員に株式を持たせる際は、慎重に判断することが大切です。

種類株式を使い、従業員のモチベーションを向上させつつ、株式の分散を防止することも可能です。

詳しくはコラム後半の「株式分散を防ぐための事前対策」にて解説しているので、ぜひご覧ください。

分散株式の集約方法

分散してしまった株式はどのようにして集約すれば良いのでしょうか。
今回は、一般的な以下の4つの方法をご紹介します。

  • 名義株の社長名義への変更
  • 株式の買取り
  • 株式の併合
  • 特別支配株主の株式等売渡請求

名義株の社長名義への変更

1990年より前に会社が設立されている場合は、名義株によって株式が分散してしまっている場合があります。

会社法が改正され、現在は発起人は1人でも良いため、名義株によって株式が分散している場合は、できるだけ社長名義に変更することをおすすめします。

名義株の所有者と連絡が取れ、協力が得られる場合は必要な手続きを踏むことで、名義の変更を行うことができます。
協力が得られない場合でも、訴訟や株式併合などの方法で名義株の問題は解消することができます。

仮に、名義人の所在が分からず、連絡が取れない場合でも、「所在不明株主の株式売却制度」を利用することで強制的に株式を買取ることができます。

株式の買取り

株主が株式集約に協力的であり、株主の所在や連絡先が分かる場合には、株式譲渡による集約を行うことが一般的です。
具体的には、

  • 少数株主に対価を払い、株式を売ってもらう
  • 無償で贈与してもらう

という2つの方法があります。
当然、譲渡する側はより高い価額での売却を希望し、譲渡を受ける側は低い価額での買取りを希望するため、最初に株価の適正な価額を算出しなければ、交渉は難航してしまいます。

M&Aの譲渡価格はどうやって決まる?算出方法を解説

M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の頭文字をとったワードで…

株式の買取りを行う際、

  • 会社として買い取る場合
  • 経営者自身が買い取る場合

の2通りがあります。

経営者自身で買取り資金が工面できない場合、株主総会での特別決議を得る必要はありますが、会社が特定の株主から株式を買い取ることができます。

株式譲渡での集約では、税金にも注意を払う必要があります。
経営者自身が無償で株式の贈与を受けたり、適正な価額よりも低い価額で買い取った場合、経営者に贈与税が課される可能性があります。
また、会社が株式を買い取った場合、買取価額によっては、株主に対してみなし配当及び低額譲渡課税、他の株主に対してみなし贈与課税がなされる可能性があります。

株式の併合

株式の併合とは、複数の株式を集めて、より少数の株式にすることを指します。

例えば、発行済株式の10株を1株として併合した場合、1株に満たない端株が生じることがあります。
この端株は株式として成立できず、金銭処理され、会社が買取ることができます。

株式を集約させる株主には1株以上残り、それ以外の少数株主には1株未満となるように、併合比率を調節することで、少数株主が保有していた株式が全て端株として金銭処理され、株式集約を行うことができます。

ただ、株式併合によって株式の集約を行うには、株主総会にて特別決議(2/3以上の同意)を得る必要があります。
そのため、1/3以上の株式が分散してしまっている場合は、このスキームでの株式集約は困難になる場合があります。

特別支配株主による株式等売渡請求

この株式集約方法は、平成26年の会社法改正によって新たに導入されました。
この制度によって、総議決権の90%以上の株式数を保有する株主(特別支配株主)であれば、株主総会の決議を経ずに、少数株主から強制的に株式の買取りを行うことができるようになりました。

この方法では、株主総会での決議を必要としていないため、株式集約に要する時間や手続きを大幅に削減することができます。

株式分散を防ぐための事前対策

一度株式が分散してしまうと、集約に多くの時間や手間がかかることは、お分かりいただけたと思います。
そのため、適切に防止策を講じて、株式の分散を防ぐことが大切です。

具体的な方法には以下の2つがあります。

  • 種類株式を活用する
  • 遺言に後継者を記載する

種類株式を活用する

種類株式とは、株式の権利が同じである普通株式とは異なる権利内容が定められた株式のことを指します。
種類株式は、株式分散の防止以外にも、資本政策や敵対的買収の防止などにも活用することができ、有用性が高いです。
詳しくはこちらのコラムからご覧ください。

種類株式とは?事業承継での種類株式の活用方法を解説!

事業承継を実施する際には、対象となる会社の状況に合わせて様々なスキームが検討されますが、そのうちの一つとして種…

種類株式は全てで9つ程の種類がありますが、株式の分散を防止するには、以下の4つの種類株式を活用することができます。

  • 譲渡制限株式
  • 全部取得条項付株式
  • 議決権制限株式(完全無議決権株式)
  • 拒否権付株式

譲渡制限株式の活用方法

株式は自由に譲渡することができますが、定款にて譲渡制限が定められた場合、譲渡する際に、会社の承認が必要となります。
そのような制限が定められた株式を譲渡制限株式と呼びます。
この種類株式を活用することで、自社株を保有するものが勝手に株式を売買し、第三者に株式が移ってしまうことを防ぐことができます。

ただ、日本の中小企業はほとんどの場合、株式に譲渡制限を設けています。
仮に、譲渡制限を設けていない場合には、株式の分散を防ぐためにも、譲渡制限株式の活用をおすすめします。

全部取得条項付株式の活用方法

全部取得条項付株式とは、会社側が対象とする全ての株式を強制的に株主から取得することができるという内容が定められた種類株式のことを指します。

株主総会での特別決議などを得る必要はありますが、この種類株式を活用することで少数株主を排除することができます。

議決権制限株式(完全無議決権株式)の活用方法

一定、もしくは全ての事項で株主総会での議決権を持たないという内容が定められた議決権制限株式も、株式分散の防止に活用することができます。

従業員や役員のモチベーションの向上を目的として、株式を持たせる際に、議決権制限株式として持たせることで、配当などの利益面は確保しつつ、議決権などの経営への干渉を防止することができます。

拒否権付株式の活用方法

拒否権付株式は、株主総会や取締役会で重要な議題に対して否決する権利を有した株式のことを指します。

株式の分散を直接的に防ぐことはできませんが、仮に株式の分散が進み、経営陣の株式保有数が減少したとしても、重大な議題に関して否決することができ、抑止力としての効果が期待できます。

遺言に後継者を記載する

株式を所有する経営者自身が亡くなってしまい、その相続を通じて複数の相続人に株式が分散してしまうことも考えられます。
事前に遺言で株式を相続する後継者を明示しておくことで、相続での株式の分散を防止することができます。

ただ、株式を集中させる相続人以外の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。

遺留分
遺留分とは、法定相続人に対して保障される最低限の遺産取得割合のことを指しています。
相続人であるのに十分な遺産を受け取ることができなかった場合に、相続人は最低限の遺産を求めることができます。

まとめ

中小企業の強みには、意思決定の早さや経営の柔軟さがありますが、株式が分散してしまうことで、そのような強みが活かされなくなってしまう恐れがあります。
また、将来的に事業承継を行う際にも、株式の分散によって手続きがスムーズに進まなくなってしまうことも考えられます。
名古屋事業承継センターでは、事業承継に伴う株式の集約もサポートさせていただいております。
35年以上、事業承継の手続きを行ってきた実績を活かし、最適なプランをご提案させていただきますので、まずは無料相談をお気軽にご利用ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。