経営者の高齢化が進む日本では「廃業」の件数が非常に多いです。
その一方で、経営者が退いた後も会社を存続させることができる「事業承継」という手段も普及してきています。

経営者のあなたが引き際を考えたときに、廃業と事業承継、どちらを選びますか。

どちらの選択肢も良い面・悪い面、両方持ち合わせています。
本記事で2つの手法を比較することで、経営者自身が退職するときにどちらの選択をとるのかを考える際に役立てましょう。

  1. 廃業の現状
  2. 事業承継の現状
  3. 廃業のメリット・デメリット
  4. 事業承継のメリット・デメリット
  5. 廃業と事業承継の流れ
  6. 廃業や事業承継にかかる費用
  7. 最適な方法で事業承継や廃業を実現しましょう

廃業の現状

廃業とは、会社や個人事業を辞めることを指します。
債務超過や資金繰りの行詰まり、後継者不足などの外的な理由による廃業はもちろん、経営が成り立っていても自主的に事業を終了する自主廃業と呼ばれるケースも存在します。

廃業の代表的な理由を以下に挙げておきます。

  • 後継者が見つからない
  • 事業承継を行うための資金がない
  • M&Aや事業承継に関する知識がない
  • そもそも自分の代で終わらせるつもりだった

帝国データバンクが行った調査では、2022年に5万3426件の休廃業・解散が行われたことが明らかになっています。
コロナ禍をきっかけに事業の先行きが見えなくなり、事業をたたんでしまう「諦め型」廃業も増えているようです。

データが示す大きな値からも、経営をしている以上いつ廃業と向き合う日が来るかわからないといっても過言ではないでしょう。

また、解散や清算など、廃業と似た言葉もたくさんありますが、全て意味が異なりますので、過去のコラムを参考に理解しておくことをおすすめします。

廃業と清算、倒産、破産、解散などの違いは?意味や手続きの流れも解説

近年、経営者の高齢化と後継者不在の状況が原因でより一層件数が増えている「廃業」。 帝国データバンクの調査でも、…

事業承継の現状

悩む男性事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことを指します。
単に後継者を誰にするかだけでなく、自社株の引継ぎ先や後継者教育の方法など、考えることは様々です。

帝国データバンクの後継者不在率の動向調査では、2022年の後継者不在率は57.2%を記録し、5年連続で低下したことを示しています。
事業承継の窓口の普及や第三者へのM&A、事業譲渡、ファンドを経由した事業承継といった事業承継メニューが全国的に整い始めたことが理由として考えられます。

徐々に事業承継という選択肢が普及し、後継者不在率や廃業件数を減らす方向に影響しているといえるでしょう。
しかし、依然として6割程度の後継者不在率と5万超の廃業件数があることも事実です。

ここからは、廃業と事業承継のどちらを選ぶか判断する際に必要不可欠であるメリットとデメリットについて説明していきます。

廃業のメリット・デメリット

遺言書で困っている人の写真まずは廃業についてです。

廃業のメリット

  • 周りへの影響を最小限に抑えることができる
  • 手続きが少なくて楽である

周りへの影響を最小限に抑えることができる

関係者への影響を最小限に抑えられる点は廃業の大きなメリットだといえます。

従業員の退職金や取引先への買掛金などの債務を支払えないまま経営を退くとなると、その後の人生をスッキリした気持ちで迎えられません。

しかし、廃業を選択すれば債務の返済を済ませてから会社をたたむことが可能になり、ゆとりを持った老後の生活を実現できます。

手続きが少なくて楽である

廃業は、事業承継に比べて手続きが楽です。

取引先や社員との契約を打ち切るという精神的に苦しい作業はあります。
しかし、あとは関係者へ解散の旨を伝え、解散の登記を行い、債務整理や清算結了の登記を済ませれば廃業の手続きは完了なので、長い時間を必要としません。

詳しい手続きの流れは本記事の後半で説明いたします。

廃業のデメリット

  • 従業員を解雇しなければならない
  • 金銭面で負担がかかる
  • 会社が残らない

従業員を解雇しなければならない

廃業は事業を終了させますので、従業員を解雇しなければなりません。
長年共に働いてきた従業員であれば、解雇の通知は非常に心が痛むでしょう。

ただし、安易に解雇を通知してしまうと、解雇前に会社を退職されてしまい、事業運営に支障をきたす可能性があります。

従業員への廃業の通知は、一通り廃業の準備が整ってから行いましょう。

金銭面で負担がかかる

「会社の経営を辞めるだけだから、そんなにお金はかからないのではないか」と考えている経営者も多いのではないでしょうか。

個人事業主のケースは、場合によっては0円で済むこともあります。
しかし、ほとんどの場合で費用がかかってきます。

登録免許税や官報公告、施設の処分など、多方面で費用が発生します。
具体的な金額については後に解説いたします。

会社が残らない

前述したように、廃業後に会社は残りません。

これまで積み上げてきたノウハウや資産、ブランド、信用といったものは全て失うことになります。

廃業後、やっぱりもう一度やり直したいと思っても、また一から全て始めなければなりません。

一度決めたらもう後戻りはできないという点もデメリットといえるでしょう。

事業承継のメリット・デメリット

次に事業承継についてです。

事業承継のメリット

  • 会社を残すことができる
  • 対価を得ることができる
  • 節税対策ができる

会社を残すことができる

廃業のデメリットの裏返しともいえますが、事業承継では経営者の退職後も会社が存続します。

会社に対する経営者の想いというのは計り知れません。
廃業では会社や事業が無くなってしまいますが、事業承継を進めれば事業は継続し、会社名・ブランド名も存続します。

退職後に経営者以外の立場から会社に携わることも可能です。

対価を得ることができる

M&Aを用いた事業承継では、自分が会社の売り手になるため、対価を得ることができます。

企業価値が高ければ高いほど、会社を売却した時の対価は大きくなります。
加えて、現代はM&A市場は売り手市場であるため、より会社の価値は高くなる傾向にあります。

さらに、廃業を回避できた分の費用も浮き、自身の老後の生活を充実させるために使うことができるでしょう。

節税対策ができる

事業承継では自社株等の資産を承継しなければならず、大きな企業であればあるほど多額の税金がかかってきます。
実際、税金の額が大きすぎて支払えず事業承継を断念するケースも多いです。

そこで2009年の税制改正のタイミングで創設されたのが「事業承継税制」。
条件を満たしさえすれば、贈与税や相続税の納税を猶予・免除してもらえるという画期的な制度です。

当初は一部に制限がありましたが、2018年の税制改正で、対象となる株式の制限の撤廃や納税猶予割合の引上げがなされた特例措置が創設されています。

活用すれば納付税額を大きく減らすことができる特例措置は、令和6年3月末令和8年3月31日までに特例承継計画の確認申請を行わないと利用ができなくなってしまいます
この機会にぜひ事業承継税制の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

詳細を過去のコラムに掲載しておりますので、参考までにご覧ください。

【特例措置】事業承継税制とは?「贈与税」「相続税」の納税猶予や免除の要件を解説

事業承継税制とは、事業承継に関する贈与税・相続税を猶予される制度です。後継者の死亡などにより最終的には免除とな…

事業承継のデメリット

  • 時間やコストがかかる
  • 従業員が離職してしまう可能性がある

時間やコストがかかる

事業承継では廃業以上に費用がかかってきます。
企業規模が大きいほどかかってくる税額は大きくなります。

加えて、一般的に事業承継には5〜10年の期間を要するといわれています。
事業承継税制を利用するためにも同じくらいの時間が必要です。

かといって、事業承継を短期間で進めようとすると、手続きに漏れが出てきたり、後継者選びが雑になったり、マイナスの影響が出かねません。
ゆとりをもった計画を立てて実施することをおすすめします。

従業員が離職してしまう可能性がある

日本にある企業の9割以上を占める中小企業では、従業員数が少ないほど経営者の色が経営に濃く出ます。
従業員には、この経営者だからこそついていけるという人も多いはずです。

当然ですが、事業承継では経営者が変わるため、そのタイミングで退職を願い出る従業員が出てきてしまう可能性は否定できません。

従業員の退職を防ぐには、先代が退く前に後継者と残された従業員との関係性を深めるコミュニケーションの場を用意するなど、事業承継前の準備が必要になってくるでしょう。

以上が廃業と事業承継のメリット・デメリットでした。
再度、以下の表にまとめておきますので、比較する際にご覧ください。

メリット デメリット
廃業 ・周りへの影響を最小限に抑えることができる

・手続きが少なくて楽である

・従業員を解雇しなければならない

・金銭面で負担がかかる

・会社が残らない

事業承継 ・会社を残すことができる

・対価を得ることができる

・節税対策ができる

・時間やコストがかかる

・従業員が離職してしまう可能性がある

廃業と事業承継の流れ

本章では廃業と事業承継の流れを簡単に説明していきます。
手続きの煩雑さも選択の基準になりますので、しっかり把握しておきましょう。

廃業の流れ

廃業時には清算を行うのですが、資産と負債の関係性で清算の形が変わります。

  • 通常清算:資産で負債などの債務を全て支払うことができる場合
  • 特別清算:負債が資産を上回っていたり、その疑いがある場合

それぞれのケースでの手続きは以下の通りです。

通常清算

  1. 株主総会での解散決議
  2. 清算人の選任
  3. 公告と催告
  4. 財産目録と貸借対照表の作成
  5. 財産換価・債権回収と債務の弁済
  6. 残余財産の分配
  7. 株主総会への決算報告
  8. 清算結了の登記

特別清算

  1. 株主総会での解散決議
  2. 清算人の選任
  3. 公告と催告
  4. 裁判所への申立て
  5. 協定案の作成
  6. 協定案の決議と認可
  7. 協定内容の実行
  8. 特別清算の終結決定

事業承継の流れ

事業承継には一般的に以下の3種類の方法があります。

  • 親族内承継
  • 従業員承継
  • M&Aによる承継

それぞれ手続きが変わってくるので、親族内承継から一つずつ説明していきます。

親族内承継の流れ

  1. 後継者の選定
  2. 後継者の育成
  3. 株式の承継方法決定
  4. 後継者の周知
  5. 株式承継方法に応じた手続きを進行(株式売買、遺言書作成、生前贈与など)
  6. 銀行借入の保証を外し、後継者交代の準備

親族内承継の具体的な手法やメリット・デメリットまで徹底解説!

事業承継は、主に「親族内承継」「親族外承継」「M&A」の3つの種類に分けられます。 中でも親族内承継は…

従業員承継の流れ

  1. 後継者の選定
  2. 事業承継計画書作成
  3. 後継者の育成・周知
  4. 資金の調達
  5. 自社株式の譲渡
  6. 株式の名義書換え

従業員承継の流れ一覧!後継者が知っておくべきデメリットや課題は?

社長の子供や親族に後継者候補が見つからない場合、社内の従業員を後継者とする、従業員承継が選択される場合がありま…

M&Aによる事業承継の流れ

  1. M&A仲介会社へ相談
  2. 事業承継先の選定
  3. 基本合意書の作成
  4. デューデリジェンスの実施
  5. 最終契約の締結
  6. クロージング・統合作業
  7. 納税の実行

廃業や事業承継にかかる費用

一般的にかかると言われている費用について説明いたします。

廃業にかかる費用

廃業に関する費用として、以下の費用がかかってきます。

  • 各種登記費用:4.1万円
  • 官報公告料:3~4万円
  • 証明書の取得費用:3~4千円
  • 士業への報酬費用:数十万円(手続きを士業に依頼した場合)
  • 在庫の売切り
  • 設備の処分費用
  • 物件の原状復帰

最後の3項目の料金はケースバイケースですので、ご自身で計算する必要があります。

事業承継にかかる費用

事業承継で大きく関わってくる費用は税金です。
以下に代表的な税金を挙げておきます。

  • 相続税:超過累進課税
  • 贈与税:超過累進課税
  • 法人税:23.4%(中小法人の場合、800万円までは15%)
  • 消費税:10%
  • 登録免許税:(事業承継税制適用後)合併に関する手続き 0.2%、会社分割に関する手続き 0.4%、その他の手続き 1.6%
  • 不動産取得税:(事業承継税制適用後)土地や建物の取得 2.5%、住宅以外の家屋の取得 3.3%

相続税・贈与税に関しては、以下の表を参考に、ご自身が事業承継される場合の税額を計算してみてください。

相続税

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

贈与税(一般税率の場合)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

贈与税(特例税率の場合)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

さらに、弁護士や税理士・会計士等に事業承継の依頼をした場合、その報酬費用も加わってきます。
名古屋事業承継センターでは以下のリンク先に掲載している料金でサービスを提供しています。
https://jigyoshokei.jp/fee/

そこから補助金や事業承継税制を利用することで、負担を減らすことができるのが事業承継の良いところです。

制度をうまく利用して、スムーズな事業承継を行いましょう。

最適な方法で事業承継や廃業を実現しましょう

廃業と事業承継の現状、メリット・デメリット、手続きや費用を解説いたしました。
廃業や事業承継には煩雑な手続きや金銭の支払いが伴いますので、自力での実行では難しいでしょう。
専門家のアドバイスを取り入れながら、確実に進めていくことをおすすめします。

本記事を参考に、経営者がご自身の状況に合った方法を選択し、退職後も幸せな第二の人生を送ることができれば幸いです。

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